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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ!毒草園に行こう!?
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113.遠いエルフの里でお約束を叫ぶ魔族の仕込み

リアンカちゃんがやばげなモノを…

 なんか気がついたら会議が開かれていました。

 うん、よくよくわからないでいる内に、わらっと人が集まりまして。

 どうやら薬草園の各責任者大集合という面白い事態になってしまったようです。

 提示した(エリクサー)が、予想するよりも大きな存在感を持っていたみたい。


 私達の要求を呑むべきか、否か。

 いやいや要望を呑まずとも、接収してしまえばいいのではないかとか、何とか。

 いやはや殿下の後見を受けているのですぞ、そこを無碍にしては云々。


 様々な意見と目論見と打算で、会議は喧々囂々紛糾しています。

 そんなどうでもいい話し合いはちゃちゃっと終わらせてくれないかなぁ。

 早く決定を下してほしいんですけどー…

 何だか暇だし退屈だし、段々何かをしたくなってきました。


 私達の眼前、真剣に真面目な様子で議論を交わすオジさん達。

 ………今この場に、鼠花火を大量に放ったら、どうなるかな。

 好奇心が疼きました。

 悪戯好きな魔境魂を、今ここで発揮すべきでしょうか…!

 普通に考えて、駄目ですよ。

 だけど駄目だと思うと思うほど、こ、好奇心が!

 我が身と周囲に深刻な被害が及ばないと思うと、こううずうずしませんか?

 自制心さんは遠く魔境のお山までハイキングに出かけちゃいそうです。

 いえ、もしかしたら既に旅に出ているのかも知れません。

 うん…やはり私は、やるべきかもしれない!


 私はそっと、腰につけていたポーチの中へ手を伸ばし。

 確かな、その存在をしっかりと指で感じて。

 いざ、今こそ出番よと心の声をかけながら、取りだそうとして…


「リアンカ、危険人物だって判断されたら問答無用で毒草園御招待券がパーになるぞ」


 ……取り出そうとしたけど、止めました。

 まぁちゃんが「いいのか」と問いかける目で、私を見ています。


 でも、私の目は誤魔化せませんよ?


「まぁちゃん、目に『暇・暇・暇!』って書いてあるよ? 『異常事態大歓迎!』とも」

「気のせいだろ?」

「そう言いつつも、まぁちゃんだって大分退屈そうだよね」

「まー……俺、元々ただの付き添いだし」

「…楽しいこと、したくない?」

「それやって目的がパーになったら本末転倒だろーが」

「そこはそれ、そういう方面じゃなくってさぁ…」

「楽しいことなら、僕も加えてくれるべきじゃない?

リアンカに楽しい情報を提供したのは、元々僕なんだし?」

「勿論むぅちゃん、大歓迎!」


 三人、顔を突き付け合わせて悪いことを相談します。

 ふふ…度肝抜くようなハプニングでも起きない限り、止まるつもりは毛頭ありません!

 この時、私の目がギラリとなったこと。

 自分でもそんな気がしたので、否定は致しません。


「ねえ、私、薬師のオジサン達が喜びそうなネタあるんだけど(笑)」

 私の言葉に、まぁちゃんとむぅちゃんがきょとんと首を傾げて。

 こちらを見る目には、不思議そうな瞬き。

 それが、次第に「何か楽しいこと?」と輝きを増して…


 もしもこの時、オジサンたちの話し合いが、早々に終わっていたのなら。

 私達が余計なことを考えるような、そんな時間を作らなかったなら。

 そうしたら避けられてたはずの、そんな惨劇。

 それが、暇という怪物の名の下、繰り広げられようとしていました。


 

「用意するもの、その一」

「えーと、人馬の欠片に魚の鱗?」

 朗々と読み上げる声は、私。

 答える声は、むぅちゃん。

「用意するもの、その二」

「煮干しと、鰹節?」

「用意するもの、その三」

泣き女(バンシー)の涙に、マンティコアの絶叫」

「用意するもの、その四」

「取り敢えず、魔法陣」

「それじゃ全ての材料を、魔法陣の上で煮詰めて」

「鍋は……これでいいか」


 そして、準備は整いました。

 

 どこからどう見ても、怪しい黒魔術。

 仕上げに、煮詰まった鍋へとまぁちゃんが魔力を注いで…


 暇だった。

 本当に、暇だったんです。

 そして出来心でした。


 鍋から濃い毒々しいピンクの煙が立ち上ってきます。

 その段になって私達が何かやらかしていることに気付いたオジサンたち、騒然。

 何事かと戸惑い騒ぐ空気の中でも、私は全く気にしません。

 私はピンクの煙の中に、一つの枯草みたいなナニかを放り投げました。


 瞬間。


 ぴかっと、光って。


 うねっと。

 こう、うねうねっと。

 そんな細長い、無数のシルエット。

 それを有する、一つの個体。

 不思議なナニかが、鍋の中から降臨しました。


「お、おおー…予想以上に元気、ですね。二年以上乾燥保存されていたくせに」

「水分と特別な養分を吸収して、一気に育ったね」

「元の姿の何百倍、かな…」

「おいおい…。リアンカ、『薬師さん達も絶対に大喜び!』って太鼓判押してたよな?」

「え、うん」

「逃げ惑ってるぞ」

「わお」

 ああ、本当ですねー。

 本当、逃げまどってるや。

「それでリアンカ? ありゃなんだ」

「あの謎の触手…植物? どこかで見た気もするけど…リアンカ、あれ何?」


「マンイーター改良版ですが」


「「………………………」」


 わあ、二人とも!

 そんなじっと見られたら、私、照れちゃう☆

「………とりあえず、リアンカ。なんでそれで薬師どもが喜ぶと思ったんだ?」

「マンイーター、薬効凄いんですよ」

「普通の人間どもに魔物植物狩って薬作る気概があると、思うか?」

「気合いで?」

「出来るか!」

「え、でもほら、まぁちゃん」

「ん?」

「むぅちゃんなんて、見てみてよ」

 ひょいっと私が指さす先に、無言のままマンイーターを見つめるむぅちゃん。

 心なしか眼差しが熱い…というか、キラキラしてますね!

「………」

 まぁちゃんが嫌そうな顔をする中、むぅちゃんがほぅっと溜息。

 それは負の感情によるものじゃなくて、うっとりしたような色があって。

「凄いや、リアンカ…。あんな希少な素材(エモノ)を隠し持ってただなんて」

「先人達が狩り過ぎちゃって、村の周辺にはもういないもんね」

「うん、魔境でも奥地の奥地にしかいない。捕まえるのはちょっと二の足踏んでたんだ」

 ありがとう。

 そう言って、むぅちゃんが私の手をがっしりと握りました。

 握手、握手。にぎにぎ。

「でもあれ、一度さっちゃんが捕まえて改良したから、本来とは薬効に少し違いが…」

「ふふ…それはそれで調べ倒し甲斐があるじゃないか。ふ、ふふ。楽しみだ」

 ええ、研究するのが楽しみなんですね。

 分かります。

 本当に、よく分かりますとも。

「アレは一度私が研究(かまい)倒して、心行くまで薬の材料にした奴の残りなんですけど…さっちゃんが言っていた方法でふやけさせたら、本当に増えましたねー」

「増えるワカメか!」

 さっちゃんからマンイーター改の株を分けてもらった時、メモがついていました。

 そのメモに従い、保存するために乾燥物体へと変貌を遂げてもらっていた訳ですが。

 それを特殊な薬液と魔力によって湯戻しする要領で戻したのが、アレです。

 でも元の大きさの八十倍くらいに大きくなってるんですが…

 あの薬液、よっぽど栄養があったんでしょうね。

 そこらへんも、楽しそうな感じですねー。

 

 私とむぅちゃんは二人、それぞれの感慨で以て魔物の触手植物を眺めていました。

 何となく、ぼんやりと。

 わあ、大きい。

 わあ、凄いな。

 そんな感じです。

 へえ、あの触手ってあんなに伸びるんだー…

 あ、スピノザさんが捕まったー。

 うん、退屈も紛れました。


 私とむぅちゃんが二人、観察していると。

 まぁちゃんが呆れ顔で私達の額を軽く小突いてきました。

 地味に痛い…。

「お前ら…悠長にしてっけど、良いのか? 何人かもう捕まってるし、食われちまうぞ?」

「あ、そこらへんは問題なし。アレ、改良版だし」

「ああ? 改良版っつっても、人食い植物(マンイーター)だろーが」

「だってあれ、さっちゃんの魔改造でおかしくなってるから。特に、捕食対象が」

「…あ?」

「なんか、さっちゃん曰く、触手植物の定番とかって言って…」

 今でも思い出します、二年前。

 さっちゃんは良い笑顔で言い切ったものです。

 触手っていったら、これが定番だろ!と…何の定番だよ。

 多分、本当にもう、ただの悪戯心でやったのでしょう。

 私はそれを聞いた時、絶対にこの植物には捕まるまいと戦慄しました。

 なんて物を作るのか、なんて物をうら若き乙女に渡すのか、と。

 そう憤慨しつつも微に入り細を穿ち、調べ倒しましたけどね!

 あの微妙な触手に食事をさせなければ、何も問題ありません!


「あの触手、人食いは人食いでも、人の肉じゃなくてセイ…」


「待て! ストップ! それ以上は何も言うな!!」

 私の言葉はまぁちゃんに遮られ、口はしっかりと手で塞がれました。

 まあ、私も言いたくなかったし。

 言わないで済むなら、それに越したこともなく。

 察しの良いまぁちゃん有難うといった感じです。

 ただ、むぅちゃんが首を傾げているんですけどね?

 ………気になったことをとことん調べるのは、ハテノ村の薬師に共通の性質で。

 今は何も気づいていなさそうなむぅちゃん。

 この少年が、変な禁断の領域に踏み込まないか心配になります。

 あの触手を捕まえて、調べている内に知らなくて良いことを知ったりとか…。

 まあ、むぅちゃんは男の子なので、そこまで気にしたりしないかも知れませんけどね。


 ちなみにあの触手の主な薬効は…いえいえ、何でもありませんヨ!

 …ヒトにはばかるような、口に出せない効能を持っていたとだけ、言っておきます。

 二年前はその薬効は見なかったことにして、只管(ひたすら)食欲増進剤とか睡眠導入剤に加工してやったのも、苦しょっぱい思い出です。

 今思えば、あんな忌々しい植物はヨシュアンさん当りに売りつければ良かった。

 きっと、高値で引き取ってくれたことでしょう。


 だけどあの触手が珍しいことに、変わりなく。

 そして本来の薬効も、損なわれることなく。

 薬の素材とするには、かなりお得。

 手土産って訳じゃないんですけどね?

 手持ちの素材の中で、色々選択肢はあったけど。

 アレが一番、薬師さん達にとっても面白いんじゃないかなぁって。

 そう思ったんですけどねー…

 人間の領域じゃ、どう頑張ったって絶対に手に入りそうにないですし。


 ですが、現在。

 目の前で繰り広げられる絶賛大パニック。

 特に、既に触手に捕まってしまっている人達の身柄が案じられます。

 元凶、私ですけどね!


 ………喜んでもらえるかと思ったんですけどね?


 結局、喜んだのはむぅちゃん一人でした。

 


  → リアンカは 魔物(マンイーター) を召喚した!

   薬師A~Zは逃げだした!

   ミス! 回り込まれて逃げられない!

   薬師たちは縮こまって怯えている!




マンイーター

 ここでは赤地に黄色い斑点の巨大食人花(中央部に巨大で牙の生えそろった口アリ)です。

 花の裏側から緑色で無数の触手がわさわさ生えています。

 その触手がうごうごわさわさ動いて自走可能。

 ちなみに改良版の餌(リアンカちゃんが言いかけて、まぁちゃんにさえぎられたもの)は、人間の生気(エナジー)です。

 長く持続的に餌を搾り取るため、生かさず殺さず搾り取ります。

 長く生気をすわれ続けると、かさかさのミイラ状態に…

 でも長期的に捕食するため、本当にじわじわと生かさず殺さず。

 長くて、50年くらいかけて食い殺します。

 ちゃんと死なないよう、マンイーターが世話しながら、ね。


 まぁちゃんは何だと思ったんでしょうね(笑)

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