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第1話『寝取られ男とブリーフィング』

「まず、竜教会が竜骸の森の奥地で儀式をしているのは知っているだろう?」


「はい。それを阻止する……という話でしたよね? でも事前に情報を把握しているのなら―――俺たち以外にも依頼された人間はいるんですか?」


「残念ながら……存在しない。私とお前、二人で解決すべき事になる。」


 まぁ、それもそうか。

薄々勘付いてはいたが、そうなると知ればやはり余計絶望感が強くなる。


 たった二人で竜教会を壊滅させろなんて、普通の戦術家なら唾棄するようなことだろう。



 

「師匠、正直なところ勝敗のアテはあるんですか? いくら師匠が強くても、もっと俺よりマシな人材は「今現在、もっとも私が信じられるのがジョン、お前しかいない。 今やブロッサミアは宰相の庭……強者は大勢いるが、連中が裏切らない保証はないのだ」……なるほど」



 俺は口に食事を運びながら、考える。

師匠が俺を信用してくれるのはとても嬉しい。 それこそ、前世では師匠と別れてからは死ぬまで会うことはできなかった。




 だが、それとこれとは話は別だ。

俺は勝てる戦いしかしない。勝てない戦いをしても死ぬことがわかっているから。意味なく殺されるのは目に見えてるから。



 前世の俺はけして環境に恵まれている方ではなかったと思う。 実際のところ俺には童話の英雄のような才能や、英雄譚の中心人物のような加護もない。


 

 だが、それを補ってAクラスまで成り上がったのにはそれなりの経験があった。 薬草と毒草を見分ける知識から戦闘時に敵からのダメージをいかに少なくする立ち回りをするかまで……俺は誰よりも必死を尽くしてきたんだ。



 だが、結局の所追放された。

それは俺自身が邪魔だったというのもあるが……他の奴らに比べて実力が霞んで劣っていたのもまた事実。



 だからこそ、余計俺は躊躇する。

このまま前に踏み出せば死ぬ。 俺の中の本能が警鐘を鳴らしていた。



 あの幼王子は何を考えてるのかは分からない。

ヤツにとっては俺と師匠はただの駒なんだろう。 だが……それでも、俺は後ろに踏み出せない。




「ジョン、どうした? ……もし気がすすまないのなら、わざわざ受けなくてもいいぞ。少なくとも、お前に無理強いするつもりはない」


「――いえ、そうではなくてッ」


 俺は師匠の言葉を遮る。

最初からわかってる。



 俺が無能なことなんか。

俺が情けない凡人であることなんか。 いままでうまく行っていたのは前世での経験と今生での対処法をある程度理解してたからで、これから先に行く場所は”それが通用しない”場所であることなんか、わかってるんだ。




 だけど。

だけど、それでも……それでも。



「師匠、俺は行きます」



「……分かった。それがお前の覚悟か、ジョン」



 村の風景が脳裏に浮かぶ。

やっと手に入れた平和なんだ。やっと壊されない平和なんだ。 竜教会にふたたび襲われたら、まだ復興途中の村は今度こそ耐えきれない。




 俺が、前に進むしかない。

それしか、やれないんだ。

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