プロローグ『寝取られ男、大鹿亭にて師匠と出会う』
「ほう……無事来れたか、ジョン」
「し、師匠……本当にいたんですね」
「―――何を当たり前のことを言ってるんだ。アダルバート様へ直々にお前のことを推薦したのは私なのだぞ?」
大鹿亭。
かつて前世で俺もいくつか世話になった大宿の一室。紙の裏に書かれていたそこに行けば、飢えた狼のような印象の鎧姿で白髭の壮年男性……銀虎と言われる俺の師匠、フローレンスが背中を壁に預けながら待っていた。
「アダルバート様ってあの子供ですか?」
「……アダルバート様は王国第四王子だ。ジョン、まさか知らなかったのか?」
「だ、第四王子!?」
ま、まじか。
冗談よしてくれ師匠……そんな人間に俺は頼み事をされたのか? クソ、急に腹が痛くなってきた。
「ハァ、お前は抜けているのか抜けてないのか良く分からん。 まぁいい、少し食事でも取りながら話すとしよう、腹も減ってるだろうからな」
そう言って師匠は歩き始めると、目線で俺に食事席に座るように促す。 なるほど、奢ってくれるのか。正直腹は減っていた……朝方に馬車内でサンドイッチ食べたくらいしかないからな。
「……さて、ジョン。本題に入るが――」
目の前に広がる食事。
ふんわりと甘く美味しそうな香りを漂わせる丸鶏のハチミツ焼き、暖かく湯気を立ち上らせる分厚く切られたネギにジャガイモが入ったコンソメスープ、更には斜めに切られた素朴で柔らかそうな黒パン。
更に飲み物はミルクだ。
流石大鹿亭。 これで一泊銀貨一枚なのだから王都でも大人気なのは疑いの余地がない。
「……まったく。まずは食べてからにするか、そのような顔を見せられては食いながら話すことなどできなさそうだ」
「ありがとうございます、師匠!」
そして俺はすっかりと空腹の魔力に取り憑かれながら、丸鶏のもも肉をむしり取って思い切りかぶりつく。
まるで滝のようにあふれる濃厚な肉汁にジューシーな食感が舌一面に広がる。 そして鼻奥に立ち込めるのはチキンの食欲奮わせる蒸気だ。
ハチミツの甘さとよい塩梅の塩が噛み合い、芳醇な照り焼きに仕上がっているのもポイントが高い。
おそらくハチミツ漬けではなく塗っているのだろう……漬けると本来は柔らかくなるが、むしろ塗っているに収めているおかげで鳥本来の旨味が一気に溢れ出す。
「うむ、さすがの旨さだ。しかし物価の高い王都でこの食事を銀貨一枚の内で出せるとは、驚くしかないな」
「どうやら王都郊外に契約農場や養蜂場があるみたいです。だから安く仕入れてるそうで……」
「ほう、詳しいなジョン。だが私としてはその知識を得る時間を使って武道を究めてもらいたいものだ」
全く、ぐうの音も出ない。
しかし最近はいかにも貴族貴族しい少なめの食事ばかりで鬱憤が溜まっていたことあって、バクバクと食べてしまう。
「それくらい食べてるなら落ち着いただろう……よし、なら今度は本当に本題へ入らせてもらうぞ」
「むぐっ……はい、師匠」
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