第39話『寝取られ男は幼王子に巻き込まれる』
俺がずっと言われたとおりにしょうもないことを話している間、この掴みどころのわからない子供から伝えられるのは以下のこと。
『竜教会がミッテエルン森林の奥地にある【竜骸の森】で竜の召喚を企てている』
『この国の宰相は自らの命を狙っており、なおかつ国王を薬漬けにして竜教会を利用しようとしている。自分はそのせいでうつけを演じている』
『だから騎士団を派遣することはできない。君のことはヴィクトリア嬢やフローレンスから聞いているので竜教会の企みを阻止してほしい』
……正直、信じることはできない。
それに加えてなんのこったというかんじでもある。
まず竜骸の森のことは事実だ。 大昔に魔竜を英雄が倒したときに竜が堕ちた場所でミッテエルン森林の最深部の更に奥にある【禁域】にされている場所。
しかしその後が問題だ。
宰相が国王を薬漬けにしてこんな子供の命を狙ってるんだ?
まずこの子供がよくこういったことを喋れているのも疑問だし、誰かに操られてる可能性だってある。 現に俺は夢の中で竜教会の関係者みたいな連中に悪夢を見せられたしな。
『信じてくれなくても構わない。ただし少なくともこの国の運命は君にかかっているんだ。 実力が心配ならフローレンスも共に行く……それに、ヴィクトリア嬢にも裏で報告はしてあるよ』
そう言って謁見が終わった後に行く気があるならと【大鹿亭】と書かれた紙を半ば無理矢理に握らせられる。 止めようにも相手は貴族なので声を上げるわけにも行かず……。
(あとでヴィクトリアに聞いてみるか?いや、でも事前に報告してあるならむしろ聞かないほうがいい……のか?畜生、なんで俺はあんな子供の言うことを真に受けてるんだ)
そして謁見が始まる。
俺が前世で見たときよりはふくよかだが、それでもやつれた表情の国王。
何よりあの子供の言っていた宰相は――――いかにも人畜無害そうな、仕事のできる穏和な人間というようにしか見えない。
「陛下は此度は謁見の許しを頂き――――」
「うむ、遠路はるばる東より参った功、こちらも労いたい――――」
というふうに、いつもの緩やかな動きやすそうなドレスではなく、女騎士が纏うような礼服に着替えたヴィクトリアが跪きながら国王に謁見を行っていた。
まったくもって荘厳かつ厳粛な雰囲気で、俺みたいな市民がいるところではないなとヒシヒシ感じるほどだが。
そんな中で俺は喋ることもないので、ひたすら下の赤い絨毯を見続けている。
そんな中で脳内にちらつくのは、あの子供から言われた言葉……【竜骸の森】に【竜教会】がいるということだった。
(謁見のあとには暫く休憩時間があると言っていた。もし行くのなら……タイミング的にはその時間に行くしかなさそうだな)
師匠もいると言っていた。
もし嘘なら貴族の子供でも容赦なく殴り飛ばしてやりたい……だけど、もし本当なら師匠に受けた恩からすればとんだ師匠不孝だ。
(騙されたと思って行ってみるか……。ヴィクトリアには事前に伝えられてるなら、俺も心配事はないし)




