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第38話『寝取られ男は国王謁見の前に待機する』

 国王への謁見。

そんなもの、俺はしたことなんてない。


 

 ヴィクトリアは今現在、王宮の方で先立って宰相あたりと話してるらしいが……正直なところ、俺からしたら今過ぎゆく時間で痛む腹のほうが心配である。


 

 だってわかるか?

キラキラのシャンデリア、一平方メートルで金貨百枚はくだらないだろうというレベルのカーペット、壁はきめ細やかな大理石で鏡はガラスではなくクリスタルを徹底的に磨いている高級品という始末。



 正直なところ、こんな場所はただの平民の俺にとってただの毒でしかない。 いや……毒どころの話ではない。冥府への入り口である。早急に帰りたい。むしろ辺境伯の頼みを承諾した過去の俺をぶん殴りたい。



(冒険者の頃は貴族に謁見したことくらい、いくつかあったんだけどなぁ)



 その都度、裏でルキナにマナーを指摘された覚えしかない。あいつは上流階級生まれだからマナーを知っていて、俺はそれをひたすらに教授してなんとか取り繕えたわけだ。



(いや……王様に謁見したこと。一つだけあったな)


 否――――思い出す。

一度だけあった。国王に謁見したことが。





 帝国との戦争のずっと最初の頃、冒険者義勇軍の中で初期の頃はB級パーティの中でも上位な連中は俺たちのパーティしかなかった。 その頃、初めて謁見したことがある。



 すごくやつれた顔で、椅子からは立つこともできなさそうなやせ細った体。王国軍は帝国軍に初戦で敗退したせいもあり、前線から急いで撤退したせいか国王の証である赤色のマントは煤やホコリですっかりとくすんでいた。


 

「まぁ、今になっちゃ過去の話なんだろうけど……」



「ねぇ!何の話してるの!?」


 びくり、と体が反射的に反応する。

声の方向に目だけやれば、いかにも王子様といった風貌の金髪碧眼でしっかりとした礼服を身に纏った……俺より5歳ほど下であろう子供が俺をキラキラした目で見つめていた。



「大した話でもないですよ。私のような平民の話など勿体ない」


「えー?嘘だよウソウソ!絶対面白い話だもん!!」


 俺が軽く追い払おうとするが、この子供……もといガキはむしろ体を前に乗り出して食いついてくる。 このストレスの状態でめんどくさいことこの上ないが、ぞんざいに扱うと俺の首……いや、ヴィクトリアに迷惑がかかるかもしれん。それだけは避けたい。




「あはは……好きものな方ですね。わかりました、平民の話で良ければお聞かせしますよ」


「うん!」


「それで、どんな話が聞きたいんです?」


 そうすると子供はゆっくりと俺の耳に口を近づけた。

まるで……子供らしくのない声色で。



「……今から話すことを、僕に話をするフリをして聞いてほしい」



 おいおい、よりにもよってなんで俺なんだ?

陰謀ごとに巻き込まれる年じゃねぇだろ!?

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