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閑話2『ルキナ=フィン=アルーセン Ⅰ』

 私は、北方の小国の公女だった。

幼い頃から父上と母上から小国ながらにちゃんとした教育を受けて、自らの力の使い道を間違わないように教えられた。 私の魔術は……王家に伝わる禁術は表立って使わないように、と。



 それをずっと、守ってきた。 

雪が降っても、風が吹いても、潮風が城のテラスに入り込んできて少し目が滲みても、舞踏会で他国の王女に足を踏まれたときも……国が焼かれたときだって、守った。



 そして、父様と母様は死んだ。

強力な魔術を使わなかったばかりに……私が使わずにただ見守ることしかできなかったばかりに。



 そして、私は巡り巡って逃げていたところを奴隷商に捕まり……高級奴隷になった。 色々な国に連れ回されて、私の奇異な見た目を見世物にされて……そしてついに奴隷として売られることになったんだ。



 売られるのはブロッサミア王国、というところらしい。

私の国とは大違いなくらいに大きな国で、豊かな自然や川が流れている場所。 でも私にとってそんなのは灰色にしか見えなかった。ただ、ただ……灰色にしか。   




 そして、私一人を運ぶ馬車の中に閉じ込められているとき。突然騒ぎ声が聞こえた。どうやら奴隷商が野盗の類に襲われたらしく、私は馬が転がったせいで馬車の外に投げ出される。



「へぇ、お貴族様かよ。こりゃあいい」


 当時の見せ物ということで私には上等なドレスが着させられていて、見た目はきれいに整えさせられていた。 だからそのときの野盗は勘違いしたのだろう。



 私は撃退しようと禁術を使おうとしたが……約束のせいで魔力を出すことを躊躇った。だから死んでいた奴隷商の持っていた装飾だらけの銀剣を持って……私はにわか仕立ての剣術で戦うことにしたのだ。




 結果はわかりきっていた。

攻撃を防ぐ一方で、私は結局勝つことなどできなかった。魔術さえ使えたら……そう思うこともあった。


「しっかし、運がいいぜぇ。まさかこんなチンケな護衛でお貴族が道歩いてるなんてよぉ!!ま、何人か死んじまったが……」


 その男が言う通り、野盗は他にもいくつか道に倒れていた。だけど、私はこの男一人にすら勝てない。



「それじゃあ、せいぜい死なねぇように手足ちょん切ってから可愛がってやるよ!!!オラァ!!!」


 そして私が剣を弾かれた瞬間……男がナタを振り上げた。

まるで童話で出てくるトロールのように醜くて大きな体の男……恐怖で、目を瞑ってしまう。 



 このまま、慰みものにされて。

私は無惨に死ぬのだろうか?……そう思っていた。



 その時。

鋼と鋼がせめぎあう音が甲高く響いた。



「え?」



「ッ……騎士気取りのクソガキかァ?」


「盗賊に謂われる筋合いはないな」



 あぁ、そうだ。

その時、私は初めて……『恋』をしたんだ。

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