第35話【寝取られ男は悪夢から目覚める】
「……くっ、ぁっ」
ベッドで汗にうなされていたジョンは熱病に侵されたかのような熱にたらたらと熱湯のように熱い汗を額から垂らしながら、なんとか霧がかった悪夢から目覚める。
「せ、先生!」
すると、いきなりジョンは体を揺らされる感覚を覚える。 見ればベッドの隣にはヴィクトリアが焦燥した様子で金髪を揺らし涙目でジョンを心配する声を上げていた。
「はは……ヴィクトリア、どうしたんだ……そんな、心配しなくても俺は――――ッ」
心配しなくてもいい、と言おうとするがジョンの胸に鋭い針のような痛みが響く。 それは夢の中で与えられた痛みがそのまま残っているかのような感覚で、ジョンはわずかに顔を歪める。
「せ、先生、今は何も言わなくても大丈夫です。だから、手を握っていますから、今はじっと……ゆっくり休んでください」
「あぁ。どうやら、けほっ……そのほうが、よさそうだ」
ジョンは改めてヴィクトリアの顔を見る。
綺麗な金髪は絶え間なく細かく揺れてて、目は泣き腫らして、整った顔が真っ赤に染まっている。
あぁ、それはまるで会った頃のヴィクトリアのようで。
最近のヴィクトリアに感じていた自ら以外に向けるどこか氷のような感覚が嘘のように感じられるようだった。
ジョンはそうして目を閉じる。
瞼の裏で、様々な情景が浮かんだ。 自らはなぜ悪夢から生き延びられたのか、あの赤い湖はなんなのか、そしてあの男は何者なのか。
(ドラゴニア、と言っていた。あれはたしか……竜教会の信仰対象だったはず―――竜教会といえばあの褐色のサーシア人の男……そこから関連して俺に報復でも仕掛けに来たか?)
長く考えれば考えるほど、ジョンの脳内に靄がかかっていくかのような錯覚が生まれる。 まるで真相に近づけば近づくほど迷路に迷い込んでいくかのような、それこそ冒険者時代に何度も行っていたダンジョンの深層部のようで。
どちらにせよ、悪夢のせいで体中を濡らさんばかりに汗が肌に張り付いている感覚はジョンにとっては耐えきれない不快感があった。 だが、立ち上がる気力もなく……当分はベッドの上にいるしかないだろう。
また眠れば悪夢に連れて行かれる可能性は当然ある。
だが、不思議とジョンは右手に感じるヴィクトリアの手のひらの優しい暖かみとどこか安らぐような風を感じ、静かに意識に暗幕を落とした。
「……先生」
ひどく消耗した様子の先生を私は見る。
先生の手はとても冷たい。生きてはいるのは分かっているのに、まるで少しでも目を離せばどこかにいってしまうかのように。
「――――ルーク」
「ここにおります、お嬢様」
私が短くその名を呼ぶと、扉を開ける音が響く。
そこには緑髪に灰色の眼をした執事服の青年、ルークが立ってた。
シャムロック辺境伯の後継者である私を狙う者は少なからず存在する。 それ故に身の回りを助け、私の目前の障害を排除する存在が必要だった――――ルークは、私にとってそういった存在だ。
「先生におそらく悪夢系の魔術を仕掛けた者がいます。シャムロック家の総力を上げて探しなさい、お父様になにか言われたら私が命令したと言えばいいわ。必要なら書類も用意します」
「……御意」
必要最低限の言葉で命令を感じ取り、ルークはそのまま立ち消えるかのように任務へと赴く。流石といってもいいでしょう―――少なからず私にとっては今現在、先生の次に信頼できる存在と言っても……まぁ、先生と比べると雲泥の差はありますが。
「先生、貴方は私が守ります。だから、今は安らかに休んでください」
あぁ、だからこそ。
先生をこのような目に合わせたものは――――容赦しない。たとえ国王や皇帝が相手だろうとも、全力で刺し違えてみせる。
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