表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/123

第34話『寝取られ男と悪夢の魔導士』

「はぁっ!」


「甘いっ!」

 がいんっ!と大きな音を立てて黒い影のような大きい爪と刀が交差する。


 本来金属ではないナニカとミスリルが擦れ合い、激しく細かな火花を散らしていた。




「クク……まさか、私の死夢術を前にしてその戦いぶりとは―――狂人にでもないと信じられないなァ!!」



「失せろ、クソ野郎!」


 

 ドンッ!ドンッ!と左右上下から大きな轟音を響かせ生々しく生え広がる鋭い黒棘を地面を蹴り、時には風と共に刀で切り裂いてジョンは男へと近づいていく。 それに対して男はフードの下で唇を微笑みげに歪ませれば、手を上天に突き出す。




「『蝕毒の死夢《ギフト=アルプトラオム》』!」


 ――――瞬間、黒く濁り渦巻く毒煙が男を中心にして一気に東西南北へと拡散した。それは具現化した怨念のようでもあり、見るだけ、感じるだけで極めて大きな不快感を感じる。




 ジョンの肌がかすかにそれに触れ、皮膚の表面が黒く腐り落ちた。更に毒煙からは狂いそうになるほどの悪臭が漂う。

う。(改行不要)



(このままじゃジリ貧だな。あの野郎にこれ以上隠し玉を切らせるわけにもいけない)



 

 ジョンは怒りを心に宿しつつも、足を常に動かして柄を強く握って静かに周りの状況を確かめる。赤い湖の湖面の上、月は血管がうかび出ているかのように真っ赤でひび割れだ。

 




 常にジョンを喰らおうと追尾してくる無数の黒棘。




 ジョン自体を蝕み腐らせ殺そうとしてくる毒煙。相変わらず悪臭をとめどなく放っており、無視していても頭痛や僅かな吐き気となって徐々に体を蝕んでいく。



 そして極めつけとして、追い打ちのように魔力弾が見境なく飛翔してきていた。非常に危険で、そしていつ死んでもおかしくはない状況。




 目まぐるしく変わる付近の気配や状況の中で、ジョンは頭を働かせて最適解を得ようとする。自分の全身全霊を、敵にぶつけ、倒す方法―――――――!




「……そうだ」


 ジョンは男へ近づいていく中で、不審点に気付く。

腕を切り落としたというのに全くもって力の低下を見せない男。


 

 そして明らかに現実味のない、細かくひび割れた月に血のように赤い空と湖の風景。だいたい、湖に立っている時点でおかしく、見たことも聞いたこともないこんな空間に突如存在するというのも変な話だった。




 つまり、ジョンが叩き出した答えは――――。

至極簡単で、それでいて今もっとも躊躇していることだった。




(おそらく、あいつの棘に当たれば死ぬ。それくらいはわかっているんだ……だが、試して見る価値はある)



 ジョンはそう覚悟を決め、唇を噛みしめると。

"思い切り刀を自身の心臓へと突き刺した"




「なっ!き、貴様!」

 慌てたような声で男が、急いで黒棘でジョンを貫こうとする。



 しかし、それより前にジョンのほうが息絶えるのが早く。




 風景はまるで泡沫の夢であったかのように。

ひび割れて、破片となって消え去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ