第27話『寝取られ男は昔話をする』
お久しぶりの投稿です!今日は三連投稿行います
「……」
ガラガラと馬車の車輪が回る音だけが響いていく。
王都まで続くあぜ道を一両だけの馬車がただ走っているのは、まぁそこまで珍しい風景でもないだろう。
といっても、まだ位置はシャムロック領からそう離れてはいない。せいぜい十数km……王都までは当然程遠い。本来はストレリチアで発生するはずだった竜教会の蜂起はラークスパー自治領といった北部を中心に発生してるので、俺たちは中部を通る形で行くと聞いた。
まぁだけど、まさかあの後でいきなり馬車に詰め込まれて行かされるとは思ってなかった。心の準備をする前に突っ込まれた上、目の前にはヴィクトリアが細指で本をめくって読んでいる。正直なところ俺は勉強道具を置いてきてしまったので手持ち無沙汰だ。
「あー、ヴィクトリア。その、なにか本はないかな?」
「……」
返事はない。
声を抑えて言ったから気づかなかったのか。いや、本に集中してるんだろうか?
少しばかり前へでた体をどうするかと考えるが……まぁ、わざわざ読書を邪魔することもないだろう。
そのまま俺を体勢を戻して窓の外を見つめる。
もうとっくの昔に収穫された後で乾燥した黒土の畑がいくつも並んでいて……落ち穂一つも残っちゃいない。
そういや、シャムロック抜けて少しと言えば――ここらへんはポーチュラカ子爵領だったな。
ポーチュラカ子爵領といえばエールが有名だ。
エールと言えばポーチュラカ、って言葉もあるくらいにここのエールは広く王国中で飲まれてる。
他のエールと比べて苦味があって爽快感はあるものの、特別凄くうまいわけではない。ただポーチュラカで群生するルベニの木の葉っぱを乾燥させたものを入れると普通のエールと比べて二倍か三倍くらい痛みづらくなる。
だからそれが王国中に広まったと聞いた。
保存が効くものは効かないものより遠くへ、広く運べるから。―――帝国ではワインが主流だから、あまり好まれないらしいのだが。
「……あっ、先生!ごめんなさい、先程なにかおっしゃられてましたか?」
そういってひたすら外の風景をぼーっと眺めてたら、ヴィクトリアが突然顔を上げてそう言ってきた。
「いや、大した用じゃない。ただ手持ち無沙汰だから本か何か借りられるかなと思ってさ」
「本、ですね。色々ありますが……先生はどんな本がお好きですか?」
そう俺が言ったらヴィクトリアは横に積んでる本からいくつか見繕って俺に見せてくれた。どんな本が好きか、って言われるとなぁ。
「その……子供っぽくて申し訳ないんだけど、“茨の騎士ルゴサ“はある?」
「茨の騎士ルゴサ…ですね。ええっと……ありました。恐らくこの童話集の中にあるはずです!」
「本当?ありがとう、ヴィクトリア」
「いえ、先生の願いですから。それよりも―――先生はなぜその本がお好きなのですか?」
「え?」
ヴィクトリアが積まれた本の下辺りから取り出した童話集を受け取って礼を言う。するとヴィクトリアがそんなふうに質問してきた。
まぁ。たしかにこういうのは7歳とか6歳の子供が読むものだ。俺みたいな13歳……正確には精神年齢30歳近い人間が読むもんではない。だけどそれなりの理由はある。まぁすっかりカビの生えた記憶だけどさ。
「あー、そうだな。語ると長いんだけど……聞いてくれる?」
「先生のお話……ですか!はい、ぜひお聞かせください!」
こんな村人Aの話を聞きたいなんてつくづく物好きなお嬢様だな……まぁ、聞き手がいるなら話すしかないだろう。
「えっと、あれはたしか……」




