第25話『寝取られ男と報奨』
襲撃から3日。
俺はシャムロック城へと呼び出されていた。結局ルキナの居場所を掴めぬまま。
「閣下……お招きいただきありがとうございます」
「クローバー村を襲撃した教団を撃退した若い英雄に、報奨をやらねばと思ってね」
辺境伯家の豪奢な部屋。
シャムロック辺境伯は隣にニッコリと笑うヴィクトリアを座らせながら、俺を真っ直ぐに見ていた。
「報奨……ですか?」
「君の師であるフローレンスも感服していたよ。実を言うと、彼は昨日あたり王都に出立していてね。君にこれを、と言っていた」
そう言って辺境伯が差し出してきたのは、黒檀の美しいすらりとした鞘に入った『打刀』であった。
「東洋の武器である刀は知っているが、それは高純度のミスリル鋼を使った一品らしい」
それは知っている。
だって、それは師匠が俺を助けるときに使っていた―――。
「いやはや、貴族ですらなかなか手に入らないような業物を弟子に下すとは、フローレンスも懐が広いよ。……抜いてみるといい」
刀を抜いてみる。
刃は青く透き通っており、まるで海の波のように白く綺麗な刃紋がすらりと刻まれていた。
「あと、フローレンスに君が他に欲しがっていたものを聞いたんだ。それを手に入れたから受け取るといい。あぁ、これは報奨には入らないから安心してくれ」
そして机に置かれたのは、木目の美しいすらりとした見た目の握れる短筒のようなもの。 筒の表面には茨彫刻の装飾が施された品。華美な見た目は元から希少なんだろう……でもそれは『まだ』王国では普及していない、俺が前世で使っていた武器の中の一つ。
「銃……!これをどこで」
「知り合いの貴族の一人が持っていたものを譲ってもらったのさ。代わりにこちら側からもコレクションの一つを譲ることになったけれどね。しかしどこでこんな武器を見聞きしたんだい?」
「そ、それは友人から借りた本から…です」
本当は銃の普及し始めたころにたまたま中古で安く手に入れたんだ。一応俺は弓も扱えるんだが携帯性に劣るから銃を使ってた。
「ほぉ、クローバー村にはそんな博識な子がいるのだね。今度は城にも招待したいものだ」
ボーグはあんまり城なんかに来るようなタイプではないと思うんだけどなぁ……。誘ったら来るかな?
「さて、ジョン・ステイメンくん。私が君にあげたい報奨の話をしよう」
「えっと、ここまで頂いたのにそんな……。第一、自分がやったことはそれほどしてもらう程では……」
これ以上貰うと逆に怖いしな。
冒険者の中では簡単な内容で妙に高い報酬の仕事は絶対に受けるなというジンクスがあるし、警戒度は正直マックスだ。
「今回の件、だけではないよ。―――人払いを、執事長」
「ハッ」
護衛の人たちと一緒に、とたんに去っていく執事長たち。おい、何の話をするんだ?
「ステイメンくん、君はヴィクトリアを……アレから救った。それに、帝国の間者である山賊に扇動されたゴブリンに加えて山賊自体も撃退した」
え、あの山賊たちって帝国の間者だったのか?
ちょっと初耳なんだが。
「それは……当たり前のことをしたまでです。故郷を守るために――」
「君にとってはそうかもしれないが、傍から見れば君はまだ幼い少年だ。そんな少年が村を救い、あげくには私の娘も救った……であれば、私も相応のことを行いたい」
机から体を乗り出してくる辺境伯。
その目は……あぁ、なにか企んでいるような目だ。
「ステイメンくん、ヴィクトリアと婚約を結ばないか?」
大変お久しぶりで申し訳ありません!7月からは前々通り投稿していきます!




