第24話『寝取られ男とルキナ=フィン=アルーセン』
ルキナ=フィン=アルーセン。
俺が奴と会ったのはいつだったか……。そう、まだフィールと出会う少し前。
俺は15歳のときに村を焼かれてから、父親が過度な仕事で死んで、母親が病気になって、それから17になるまではドブさらいやありとあらゆる底辺の仕事をしてた。
だが、そんなので稼げるわけがないことは当時の馬鹿な俺にもわかってた。俺には母親の薬代、食事代、なにもかもを稼ぐ必要があった。
だが、当時の俺の家族が逃げ込んだカレンデュラ公領の公都は夏は暑く冬は山から下ってきた冷風で寒い場所。当然ながら他の場所と比べ厳しい。
それに、都も俺が住んでいたクローバー村とは段違いの都会で――――格差も酷かった。クソ貴族のボンボンにボコボコにされたのもその頃だったかな。
あぁ、それから俺は冒険者を始めた。
最初は一人で一角兎やはぐれのコボルクにすら苦戦する有様で、しばらくはきつかった。
そこから2年。19歳になってからあいつ……エリーゼと再会して。それから一年後、最底辺のF級からD級冒険者にまで成り上がった俺達の前にあいつ―――ルキナは現れたんだ。
奴の使うのは魔術ではなく、発生させるのに触媒が必要な魔法―――その中でも特に強力な部類、A〜Sランクに位置する『血雪魔法』。
そんなやつがなぜオレたちのパーティーに入ってきたのか。聞くところによるとルキナはいわゆる北方の小国出身で、帝国が加担した戦争で奴隷になってから自分で逃げ出したということがあるかららしい。
実際、あいつには奴隷の焼印を無理やりえぐった痕があったし『奴隷になった』というのは本当のことだったんだろう。
さて、冒険者というのは験担ぎする人間が多い。実力主義の荒くれ者だらけだが……そういう連中は幸運を重視する。
それでルキナは奴隷から解放されてから冒険者になった。最初の頃は歓迎されまくったらしいが、本人の持つ魔法の忌々しさに萎縮した連中が多数いたという。
なにより美人だが近寄りがたく冷たい見た目、そして滅多に見ない真っ黒な髪のルキナ……そのうち、色目目的のやつしか寄ってこなくなったらしいのだ。
まぁ、そんなこんなでやつはオレたちのパーティーの一員になった。正直なところ、ビジネスライクな関係だったと思う。
少なくとも、リセット前にフィールと恋愛関係にあったのは知っていた。だが、あいつはエリーゼと"もうひとり"のように俺をけなしはしなかった。最後の最後まで、ビジネスパートナーだった。
だから、あいつのことはよく分かるのだ。
そう―――このクソみたいに冷たい、人の髄から凍らせるような魔法。そんなのを使うやつは一人しかいないってことくらい。
「ルキナ、お前がこの村にいるのか?」




