第22話『寝取られ男と褐色司祭』
互いに弾き飛ぶ。
俺は体制を立て直して構え直すが、褐色司祭は柄に予備の独特な黒色の袋が下にぶら下がった穂先を腰蓑から取り出しては柄先に装着している。
黒い袋……中には粉でも入っているんだろう。
先程の発破のような炸裂音、チリチリと弾ける炎、そしてまるで押し出されるかのように素早くこちらに飛翔してきた穂先。
「火薬槍。サーシア人の伝統装備だな」
「流石だ、少年。やはり将来有望なのは間違いない!!」
そして、今度は穂先を飛ばさずにそのまま槍として構え――――土煙を上げて地面を蹴り上げながら、すばやくこちらに襲撃してきた。
男の動きに合わせ、俺はすばやく前より吹く風に切り逆らうように剣を横から振り出す。
そして次の瞬間、ズシンッ!と一気に同時に重圧としびれが俺の神経を揺らした。
「ぐっ!」
手元を見れば、褐色司祭が俺の剣を上から槍で叩き伏せようとしていた。
槍は点ではなく、柄のしなやかさを利用した面での攻撃もできる。
対して剣は面での攻撃はほぼ不可能だ。斬撃と刺突に特化している。そこを突いてきたのだ、この男は。
「苦しそうだな、少年。降参するか?」
「『強撃』」
だが、俺だって素人ではない。
ここで剣を叩き伏せられてるなら、とっくの昔に俺は冒険者の道半ばでゴブリンにでも食い殺されているだろう。
だから、俺は『強撃』で柄ごと切断すべく下から上へ……叩き伏せようとしている力ごと天を衝くように切り上げる!
「チィッ!?」
刹那、俺への反撃に褐色司祭が柄の中辺りにある引き金を引こうとしてたのが目に入った。
反撃される前に穂先を火薬で弾き出して俺を殺そうという算段か。
「だがっ!」
「やらせはしない!!」
褐色司祭が引き金を引こうとしたそのチャンスを俺は見逃さない。
なかば切り上げられてほぼ俺の胸と水平の位置になった穂先。俺は再度、俺の体を信用させてもらう。
失敗すれば胸に深々と穂先が突き刺さって終了だ。だが、このチャンスを逃せば二度と俺にチャンスは訪れない。
「なにをするつもりだ………ッ!?」
「『強撃』!!」
負荷が脳を揺らす。
それと同時に俺の血管が張り詰めて破裂しそうになる感覚が途端に襲ってきた。
だが、うまく武技自体は発動できた。
瞬間的に俺の体は一瞬だけ生み出された強力な力と反射神経に後押しされ―――――
「がぁっ!!??」
剣先が―――飛翔してきた穂先にぶち当たり、穂先がその推進力を更に上回る力の作用で跳ね返らせ反転する。
そして、力を保った穂先が褐色司祭の腹部へと斜めから急角度で深々と突き刺さった。
「カハッ」
ふらふらと、褐色司祭が足元をふらつかせる。
だが、倒れない。
「ぐ、ぐぐ、ぐぅぅぅぅぅぅぉぉぉぉぉ!!!」
深々と突き刺さった穂先を掴み、投げ捨てる褐色司祭。
マジかよこいつ……。
化け物か?
「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜえっ、クク、クハハハ!!!はぁ、はぁ、面白い。面白いぞ、少年!!」
刹那、褐色司祭の構えが変わる。
あぁ畜生、そりゃそうだ。仮にも司祭って名乗ってるやつが、使えないわけがない。
「ならば私もそれに返そう!!土よ、我が主ドラゴニアの加護よ、今ここに宿らんことを!!」
褐色司祭の槍が見えない力で巻き上げられた土や砂に纏われる。
「『追憶の砂龍槍!!』」
「ハハ……クソ」
迫るは、白砂の槍。
属性が何だとかはわからない。だが、たしかにわかること。
それは前世の俺でも喰らえば―――あの世の川を渡ってしまうほどの威力だということだ。
(あぁ、くそ。体が動かねぇ。強撃三回で麻痺る体なんて情けねえな)
ここで死ぬのか。
――――なんて、絶対に思わない。
絶対、生きてやる。
絶対に、絶対に!
「俺は生きる!!」
「クハハ!ならば生きてみせよ、少年!!」
槍が迫る。
動け、俺の体。動け、動け、動け、動け!!!
その時だった。
パァン!という炸裂音とともに、褐色司祭がゴムまりのように横へ吹き飛んだのは。
奇跡か、必然か。
俺はそれをあえて言うなら奇跡とは呼びたくない。
音の方向を見て、俺は不思議と笑う。
あぁ、そうか。俺はひとりじゃない。
「ジョンを……や、やらせはしないぞ!!」
蒸気をまるで硝煙のようにくゆらせる蒸気砲。
その後ろで引き金を引いたまま硬直してそう叫ぶボーグ。
あぁ、そうだ。
俺達は絶対に、負けない。
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