表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/123

第14話『王城、揺れる』

 ブロッサミア王城。

玉座の間にて、王座に座る王が顔を青く染めて震えていた。



「な、なんだと……?竜教会が蜂起した、だと!?」



 竜教会の蜂起。

それはまごうことなく現時点で誰も予想し得なかったものだった。




「はっ、しかし我ら王立騎士団が責任を持って対処致します」



 跪きながら、頭を下げる甲冑騎士。

だが、やせ細り汗ばんだ国王は怯えた表情で持っていた伝書を騎士に向かって投げつけた。





「対処だと!?宗教は熱病だ!もし諸侯や村人がやつらの教義を信じたらどうする!?根こそぎ殲滅するのだ!村人ごと、教義を信じたものは根こそぎ!」



 はぁ、はぁ、と汗をポタポタと垂らす国王。

そして騎士を玉座の間から退席させ、横に居た同じく痩せぎすの宰相に対して国王は顔を向ける。




「さ、宰相。これでよかったのだな?」



「はい。陛下……宗教は熱病、ねこそぎ消滅させねばなりませぬ」 



「だ、だが……流石に市民たちを殺すというのは」



 現国王、リチャード・ブロッサミア10世はもとより神経質な体質であった。 だが、国王としての才能に劣っていたわけではない。けして、無能ではなかったのだ。



 されど、綺麗な花も周りが汚染された沼なれば枯れ果てる。リチャードはその花であったのだ。


 

 宰相、セオドリック・オブ・メタセコイア。

宮廷貴族ながら侯爵の官位を持つこの男は、正しく奸雄であったのだ。 もっとも、この男……もとは庶子である。



 

 だが、庶子であれど侯爵宰相としてここに立つ。

それははっきりと言って自由主義のブロッサミアの中では異質なことであったのだが………残念ながら、宮廷貴族の半数近くはこの男に骨抜きにされている。




 ありとあらゆる手管に優れた男……無論、その毒牙にかかったのは国王も例外ではない。

 



「―――陛下……お言葉ですが少しお疲れかと存じ上げます。後宮にお休みになられては?」



「……あ、あぁ。そ、そうかもしれぬ」

 そして宰相の指が鳴らした甲高い合図の音。

それと共にお付きの者たちが蔭より出てきて、国王を奥へと連れて行かんとする。




「……例のお薬も用意するように。陛下はお疲れの様子だからな」

 ニッコリと微笑み従者にそう言う宰相……セオドリック。

その笑みはまさしく、悪魔の笑顔と言っても差し支えはないものである。



   









 誰もいなくなった玉座の間。

セオドリックは一人、入口の扉を睨んでいた。



「とんだ邪魔者だ……竜教会。私が帝国に抑え込もうとしたらこれとは、な」   



 セオドリックは奸雄である。  

だが、無能ではない。むしろ、ここまで上り詰めたのは正 しく有能……否。天賦の才能とすら言える程だろう。

 


 だが、セオドリックは英雄ではない。

その野心は……凄まじい。




「国王もまだ抵抗意志がある。もっと強い薬か、薬自体の量を増やさねば、な」




 美しき花ではなく、汚染された沼である理由。

それは、セオドリックの獣の如き瞳が暗に示していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ