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第6話『寝取られ男と獣討ち当日』

「先生、私は現地に向かえませんが……頑張ってきてください!」


 そのようにヴィクトリアにジョンは出立の言葉をかけられて森へとフローレンスのまたがる馬の後ろへ乗り、向かうこととなった。


 

 獣討ち当日。

青空が向こう側まで広がっているのが明確にわかるほどの透き通った晴天の下で、色褪せ褐色になった草原と紅葉を散らすカエデの樹が並んでいる。




 王都の役人や商人たちが通るため、凸凹でこぼこの少ない土道が草原に1つの線として刻まれ、見事に地平線の向こうまで続く。

 



 鷹のヒョロロロという鳴き声が遠くに聞こえた。

あともう少しで冬だというのに、人と変わらず鳥たちは眠らないようだ。





「ジョン、小太刀の具合はどうだ?」

「万全だ。よく身の丈に合ってるよ」

 

 小太刀。

一見すれば太刀より短いようだが、刃渡りは60cmほど……いわゆる打刀とほぼ同様とも言える。


 それでも、拵えは太刀と同様。

刃渡りが幾ばくか劣るだけで、十分に剣同士でかち合えるものだ。




「いまいち信じられんところはあるが、お前はまだ11だ。なので、いくらか何時も通りの獣討ちと違い数段ほど大きさの小さなものを選んだ」


 もっとも脅威でいえば差はないものであろう、そのような意味が暗に言葉に込められているのをジョンは感じながら……それほど時も経たず馬はある森の前へたどり着いた。



「こんな近場なのか」

「獣討ちをお前に告げる前、ある依頼が入り込んできてな。偶然、それがたまたま都合の良い魔物だったというわけだな」

 

 雑木の並ぶ森はひたすら向こうまで続いており、森の中には複数のまばらな光が差し込むだけで―――それほど明るくはなさそうだ。




「師匠、それはどんな魔物なんだ?」

「"ワイルドボア"だ」


 ワイルドボア。

一般によく見られる魔物の中ではもっともメジャーな獣と言えるそれは、名前こそただの猪に見える。


 しかし、その口から生えた鹿角のように枝分かれした巨大な牙。


 明らかに普通の猪とは別物の筋肉質な肉体、黒紫の毛皮に白い点々模様。見ればわかる、明らかな魔物なのだ。




 しかもワイルドボアは厄介なことにイノシシのように畑を荒らすに留まらず、肉をも食らう。

 

 いわゆる雑食であり、場合によっては人を襲い食うものさえもいる。そうでなくとも、家畜を襲って食うというのだ。


 その上で一般の市民では太刀打ちできないほどの強靭さ、凶暴性、無尽蔵の食欲は害獣の王様とまで言われる。



 

「ワイルドボア……それがこの森に?」


「そうだ。もっとも、お前がうまく太刀を扱えば打ち倒せる相手なのは違いない。前にあぁは言ったが、お前に教えた範囲の型で狩れる魔物ではあるからな」

  

 しかし、ジョンの表情はそれほど明るくはない。

それには、ある理由があった。




(ワイルドボア……あんまり、会いたくはなかった相手だ)

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