第5話『寝取られ男と太刀』
『太刀とは、斬ることに特化した曲剣だ。サーベルやカトラスとは隔世があるほど、鋭さに於いて優れている』
扱いが上手ければ、ただの刀でも上位の魔力剣にさえも立ち向かえるほど。フローレンスはそう付け足した。
『また、耐久性にも優れる。太刀にも種類があるが……俺が使うような剛刀の類であれば、激しい打ち合いは問題ない。一撃必殺や回避を主としたスタイルならば、剛刀は向いてない』
『刀には大きく3つの流派がある。サンシアではあまり普及していない武器のため、使う流派もバラバラだが』
一つ目、橘流。
かつて戦乱の時代に生まれ、切り合いを主に置いた剣術で、いかに相手を死に至らせるかをモットーとした剣術流派。
搦手や兜割りといった刀に負荷をかける事も型にあり、今では極東の方でもあまり好かれていない。
二つ目、桜流。
もっとも古く、神事の剣舞から派生する形で生まれた伝統ある剣術。
神に仕える巫女や山伏という宗教人が主に扱うもので、霊力という物を刀に纏わせ、火属性や水属性にしたりと魔力剣のようなスタイルで戦う。
三つ目、藤流。
最も新しくもっとも扱われる剣術。抜刀剣を主力とした一撃必殺型の剣術で、桜流の普通剣術をベースとしている。
橘流で多く使われる剛刀ではなく鋭さや抜刀に特化した刀の類が扱われる。
そして、ジョンの頭には一週間ほど前にそう伝えられた言葉が残っていた。
「……確かに、実戦用として太刀は用意している。しかし、お前には橘流の型は一つしか教えていない。それでもやるか?」
それは忠告であった。
無闇に新しい武器に手を出し、死ぬものは大勢いる。使い慣れた武器のほうが死亡確率が遥かに低いのは当然だ。
だが、ジョンは凡人である。
いくら戦えど、いくら鍛えど、才能ある者には追いつけぬ。
属性適性もなければ加護もない。
なればこそと、様々な武術を学んだ。それこそ死にかけてでも。
獣討ち。
いくら師であるフローレンスが危なければ助けるとはいえ、死に限りなく近くなる実戦に変わりない。
故に、ジョンはあえて太刀を選ぶ。
自らの持ち得る武術が残弾とすれば、武人と戦うには弾が多く必要になる。なればこそ、たとえ死にかけてでも慣れる必要があると感じたのだろう。
「あぁ。俺は今回の獣討ちでは太刀を扱う……師匠、それで構わない」
「……生き急ぐか?」
カア、カアとカラスが鳴く。
夕焼け小焼けの茜雲の下、ジョンはその問に毅然とした態度で答えた。
「いや、命こそ最優先だよ。ただ、俺は才能がないから―――」
ふと、そう本音を漏らすジョン。
だが、11歳ではまだ属性や加護の検査はされない。そのことを思い出したのか、少し焦り顔を強張らせる。
だが、フローレンスの顔はジョンの目をまっすぐ見つめていた。そして、笑う。
「ハハハ!そうか、才能がないか。なれば、多くの武術を学ばないといけないな!なるほど、そういうことか」
フローレンスが一人で納得したような声を上げる。
それに対してジョンは?印を頭の上に浮かべ、追いつけていない様子だった。
「良いだろう。獣討ちの日、お前に太刀を与えよう……無事、獣を倒してくるようにな?」
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