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第4話『寝取られ男と師匠の語らい』

「―――今日はここまでにしておこうか」

 すっかりと黄昏色の夕焼けに染まった空。

城から見る中庭からの空は、四角色の箱に収まったかのように見える。



 ジョンは訓練槍を地面に突き刺すと、その場に座り込む。だが、他にも様々な訓練武器が壁に立て掛けられているのがわかる。




「一日に4種の武器訓練とはな、中々にやる」

「ありがとう、"師匠"」



 訓練が始まってから早一ヶ月。

10月の秋空はますます寒さに磨きがかかりつつある11月の頃合い。ジョンのフローレンスを呼ぶ名や声もまた、変わりつつあった。

 



「さて、あと5ヶ月。もう少し余裕があればより深く教えたいが……お前は基礎もできている。早めに"獣討ち"も体験さ

せないといけないか」



「……獣討ち?」

 ジョンは存外、それについて理解していた。

だが、リセット後の世界のジョンはそれを知る由も無い。

 


 そう心がけている日頃の故もあってか、その言葉がほぼ無意識に紡がれたのだろうが……。



「あぁ、ジョンには教えてなかったな。獣討ちとはその名の通り……魔物のたぐいを訓練の成果の一環として討ち取るもの。私も、私の師匠も……そして十数年前に教えていた弟子もまた、訓練の境目にはそれを行っている」




 いわゆる、実戦演習の類か。

少なくとも傍からみればわずか齢11の子供に魔物狩りを担わせるのが異常だが……。




「師匠、俺はまだ未熟だ。獣討ちは……」



「―――山賊の頭を鉈で打ち殺し、ゴブリンをも狩ったとあのお嬢さんから聞いた。今までの技量も見て、満足に行えるはずだ。それに、俺も隠れ同行させてもらう」


(そうかもしれないけど……前世の俺でも半年はしたあとに獣討ちだったぞ。いくら半年しか時間がないと言っても、早すぎないか?)


 心中で頭を抱えるジョン。

その考えも当然と言えよう。なんといっても、獣討ちはいくらフローレンスがいずこかで同行するとはいえど魔物を相手とるのだ。



 しかもおそらくは獣討ちで狩る魔物は、下級魔物の類であるゴブリンやコボルトとは訳が違うものであろうとジョンは脳内で推察した。

 



 だが。

これを断る手は、ない。



「―――期日は、いつまでだ?」


「フッ、その言葉を待っていたぞ。さて、今日が11月の11日だから……15日にやるとしようか。武器は何を使いたい?」


 フローレンスがニヤリと好戦的に笑う。

そして、ジョンが今訓練を行っている武器は4種あった。



 長剣。

ジョンがもっとも扱い慣れ、もっともベーシックな武器である。そして、錆び剣を含めるならば唯一今生で実戦を経験したものとも言える。


 

 槍。

その長いリーチと軽快さは長剣には出せぬ物。距離さえ保てば一方的に突き殺すこともできる。



 短剣。

距離がひどく短く一見すべての武器に劣るように思えるものだが、しかしその素早さと急所の狙いやすさはあらゆる武器の中でも突出している。



 そして、それ以外にジョンが前世では学ばず今生にて初めて学び始めた武器があった。




「太刀は可能か?」


「……つい一週間前に学び始めた武器を実戦に使うか?念の為言っておくが、太刀は長剣とは異質の武器。慣れぬ武器で戦えば死を呼び寄せかねないぞ」


 太刀。

遥か東国オリエントより更に東。武士モノノフの国と呼ばれるその場所にて、扱われる曲剣。



 そして、目の前の師。

フローレンスの武器もまた、太刀である。

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