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第3話『異変の風』

 湿った洞窟。

ポタポタと岩天井より滴り落ちる水は多くに石灰を入り混じらせた石灰水であり……ゴツゴツと切り出されたような風貌の石床には薄く白く固まった石灰が張り付いている。


 そこに、いくばくかの足音が伝わってきた。

革靴の音だけでなく、それには布が湿った石灰床と擦り合う音さえも含まれているようだ。



「おい……朝礼拝ミサの時間には10分ほど遅いぞ」

「あア、こりャ失礼」

 洞窟には複数の人影があった。

ドロドロにとろけた獣脂蝋燭の中に仕込まれたイグサの芯がぼんやりと燃えているのがわかる。



「……ドラゴニア様を信仰するものならば、当然遅刻などしないものだと思うがね……特に朝礼拝ミサは重要だ」

「あんたがどう思ってルかは知んねェけど、オレは竜神様のことは敬ってるゼ。今日もたまたま寝違えただけサ」


 全員、黒色のローブを纏っていた。

ローブには竜をかたどった銀色の紋章が背中に刻み込まれ、暗い洞窟の中……蝋燭の光に赤くぼんやりと照らされている。




「そンで、例のアレはいつ起こすんだイ?四司教をわざわざこんなトコに呼び出して―――教主サマから言伝預かってんだロ?大司教」


「……私もさっさと話を聞かせてもらいたいものね。時間、押してるんだから」


「クク……ドラゴニア様に栄光を……」

 

「―――まぁ、そういうわけだ。大司教、それについてはどうなんだ?猊下げいかから預かってるんだろう?」

 四人の黒ローブが各々声を出す。

それに……暗闇の洞窟奥深くからぬらりとまるで生まれでたかのように声が響く。



『猊下は二年後の聖戦をお望みです。皆様方にはよりドラゴニア様に尽くせるよう、献身と成長していただけるよう心より祈られております』


「2年ン?最近、ウチの管轄のシャムロックなんかじゃ帝国人の粛清ガまかり通ってるゼ?そんなユーチョーにしてられんのかよ」


『……猊下はそう、望まれております』


 

 それ以降、四人の黒ローブたちの言葉は途絶えた。

否、言葉を放つのをやめた、というべきだろう。



 蝋燭の光が、ぽっ……とおぼろげに消えた。

そして洞窟には永年の暗闇がまた、訪れたのだった。

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