表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/123

第1話『寝取られ男は銀虎の騎士と出会う』

「―――辺境伯……閣下が俺を呼んでる?」

「はいっ!お父様が急遽先生に所用があると申されたので、このヴィクトリア、急遽参らせていただきました!」

 

 いや、来てくれるのはありがたいんだ。

でも、わざわざ来ずとも使いの人来させたら良くないか?


 たしか、ヴィクトリアの兄貴……あのクズ野郎は王都で処刑されたと聞く。



 その上で俺の知る範囲ではこの子は辺境伯の正統後継者のはずだ。その上でこんな気軽に平民の家に来るのはどうかと思うぞ。

 

「ヴィクトリア、いくらなんでも後継者ならあんまりこっちには……」

「先生は私が来るのは嫌……ですか?」

 うるうるとした目でこちらを上目遣いで見てくるヴィクトリア。そんなあざといことをいつ覚えたんだ。



「……はぁ、わかったよ。OK、それで所用っていうのは?」

「はい!詳しくはクローヴィア城にて説明致します!」


 わざわざ辺境伯閣下が近くの城に来てくれてるのか。

いや、他に公務があってたまたま、か?どうなんだろうな。












「やぁ。ジョン・ステイメンくん、わざわざ来てくれて嬉しいよ」

「いえ、私みたいな平民が閣下のことに馳せ参じることができて光栄です」

 城の執務室。そこで俺は跪き、頭を垂れた。

だが、辺境伯からは頭を上げるように言われる。



「さて。それよりも、なぜ君をここに呼び出したか……だけどね」

 言われたとおり視線を上げると、辺境伯が俺の背後を指差していた。



 指の方向へ向くと、銀髪……というよりか白髪でどこか痩せ細った―――しかし猛獣のような赤と青色のオッドアイが印象的な老人が立っていた。



 その体には金属製……おそらく上級のもので作られた動きやすそうな鎧(プレートメイルと普通の兵士のつける軽鎧の中間のように見える)を纏い、腰に一本の独特な形をした曲刀を佩いている。





「銀虎の騎士、フローレンス・ペタルだ。よろしく頼もう」

 




 威圧感すら感じるその風貌。

『銀虎の騎士』。各地を放浪するブロッサミア人の騎士で、現世に生きる英雄。



 50年前に起きた帝国との衝突では敵指揮官である皇族を殺害。そして、俺の前世でも今から14年後にブロッサミアへ攻め込んできた帝国軍に対し単身で大規模な被害を与えたまさしく正道の英雄。



 そして、俺の師匠。

一年だけだったが……冒険者時代に、俺に武器や基本的な事のノウハウを教えてくれた――――人生唯一の人だ。

 


 

 だが、なんでこの人が?

確か、俺が会った時は山賊に襲われてから冒険者になろうと志した796年……16歳のとき。




 その時はたまたま王都に来ていて、行きずりの貴族にボコられて金を奪われて倒れた俺を見定めては唐突に弟子にしてきた。



 それ以来はなぜかスラムにある俺の家で一緒に武器の術を教えてくれた。なんのメリットがあって教えてくれたのかはわからない。





『ジョン、お前は必ず大成する。でないと、俺はお前に技を教えることなどない』


『俺には複数の弟子がいたが、どれも力に酔ったものばかりだった。ジョン、お前は力に酔うことがないようにな』





 だが、確かなのはこの人がいなければ今の俺はなかったということ。冒険者になって、強くなって、戦えたのはこの人のおかげだ。





「ぁ……っ、閣下、これは一体?」


「いやなに、君が剣の鍛錬をしていると聞いてね。フローレンス殿がこの城に半年ほど在留してくれるらしいから、その間に彼を師として仰ぐつもりはないか?」

 

「……理由、は?」

 それを聞くと、辺境伯はふふっ、とどこか愉快そうに口を微笑ませる。


「君への報奨が僅かばかりの金だけ、というのはあんまりだろう?それに、ヴィクトリアも彼から剣を教わる予定だ」

 あぁ、そういうことか。

追加の報奨代わりとして、娘のついでに俺へ剣を教えてくれるようにしてくれる、というわけか。



「その、私はいいんですが―――フローレンスさんはこの事に……」

「私は別に構わない。ひとり増える程度、造作もないからな」

 事前に承知してるってことね。

だけど、剣は正直腐るほどやってるから他のをやらせてもらいたいところではあるな。



「閣下、剣以外の武術に関しては―――」


「構わないよ。最近はこちらの都合のせいで君には家庭教師の仕事に対して暇を出していたから多少の融通は効かせられる――――まぁ、フローレンス殿次第ではあるが……どうかな?」


「剣以外に学びたい、か。ジョン、と言ったな。何を学びたい?」


 師匠が俺を見下ろす。

あぁ、懐かしいな。その呼び名……って、感傷に浸ってる場合じゃないな。


「魔術以外の全てを」

「ほう?全てを、か。いいだろう、ついてこれるならば―――な」



「……さて、話は済んだようだね。ジョンくん、しばらくヴィクトリアもこちらに住ませるから家庭教師の仕事を再開してくれても構わない。そしてその間に暇があれば……そう、フローレンス殿に教えてもらうといい」



 つまり住み込みの再開ってわけか。

つってもヴィクトリアに教えられることなんて、もう殆ど無いし実質的に訓練の支援をしてくれるってことか。



(僥倖だな。悩んでた矢先に運がいい)

 拳を握る強さがわずかばかりに強くなる。

コレで……少しでも竜教会に対抗する力を得ないとな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ