第7話『燃え盛る村の中で』
山賊の投げ込んだ火が燃え盛り、赤々と輝いて村の家々を食らい付くしていた。
逃げ惑う村民に立ち向かう自警団、そして僅かな衛兵が山賊の蹂躙に耐えているのがわかる。
「お嬢様……コレは」
「ピエール、見たら分かるでしょう。あなた方のやるべきことを成してください」
バッ、と右手を上げ村の入口近くより十数名の騎兵の先頭にて馬に跨り旗を掲げる女が一人。
「総員前進せよォ!」
ピエールの掛け声に応じ、騎兵隊が雄叫びを上げて村の中へと突っ込んでいく。山賊たちはその声に気づき、そしてその者たちの鎧に刻み込まれた紋章と旗に恐れる。
死を運ぶ側だったものが、死を運ばれる側となる。
人の世ではよくあることであり、弱きものを蹂躙することを生業とする山賊たちにとっての天敵でもある。
「へ、辺境伯軍だ!」
「な、なんでここにいんだよ!頭はまとまった軍はいないって……ッ!」
「ひ、ひぃ、お助けェ!」
ある村娘を辱めようとしていた男は頭を槍に貫かれ、またある男は逃げ惑う先で騎馬に蹴飛ばされ生きたまま焼かれ、そしてある男は蛮勇で立ち向かうが実力で叶うことなく斬殺される。
正規軍と山賊の違い。
その露骨な差がここで浮き彫りになっていた。
「他愛も無いですね」
眼の前で繰り広げられる自軍による山賊への蹂躙になんの表情も浮かべず、総司令官たるヴィクトリアはただピエールを側において眺めていた。
(おいおい。いくら優勢でもこれが初陣だぞ……なぜひとつも怯えていないのだ?)
そして現在副将を務めるピエールはおののく。
今までは気の弱い少女のはずであった。その少女がこの短い間に、まるで血さえも通わぬ鬼のごとき目をすることができるようになる。そんなこと、普通ではありえない。
「ピエール。兵士を連れてきなさい……あなた含め6名ほどでいいでしょう」
もはや勝利がどちらのものかは明らか。
至るところより響く野太い悲鳴のオーケストラを伴奏に、少女はパカパカと蹄を鳴らしながら馬を歩かせる。
村の勝敗はすでに付きつつあった。
山賊たちの死体が溢れ、あとは士気を失った山賊に対して騎兵による掃討という名の虐殺が行われるだけとなっていたのだから。
「……見つけました」
たった一人の少年が、身の丈以上の大男。
おそらくは山賊たちの頭の脳天へとナタを打ち込んでいる風景。
その少年こそが、思い求めていた人である。
「ふふっ、先生。今、向かいますね」
誰にも聞こえぬその言葉を胸に、ヴィクトリアは月光に金色の髪を輝かせて微笑む。
まるで慈母のような表情で。




