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第2話『楽しい日々』

 その後、城ではお兄様がお父様に「平民にいきなり殴られた」というふうに言っていました。


 当然、事実ではありません。しかしお父様はそれに憤慨して、先生を呼び出し事情聴取をするというふうに言っていました。


でも、事情聴取といえど貴族と平民。兵士たちは色眼鏡をかけて先生から不利な証言をさせるということがあるかもしれない。



 ですから、私はお兄様が去ったあとに本当のことをお父様に話しました。なぜ、そこで今まで話せなかったのに勇気を出せたのか。


ただその時の私は、自らを助けてくれた人を不当な罪で裁いてほしくないという気持ちがあったのです。



 そしてお父様は私の意見を聞いてくださり、結果的に先生は特に罪に問われることなく。


 更に先生が私の家庭教師として雇われたと聞いたときは、不思議と嬉しかった。



 でも、私にとって仲のいい方などはいたことがありませんでした。

いつか先生もお兄様のように私を見下すようになるか、去っていかれるのか……そんな不安も心にこびりついたように離れなかった。



 でも、そんな心配は不要でした。

先生は真面目に、わかりやすく私に歴史のお勉強を指導してくださったのです。


 この世界が生まれる前。地母神アーシア様が六大精霊を生み出してそれぞれの精霊に世界を作らせたということ。


そこであらゆる種族はそれぞれの精霊の片割れから生まれたということ。



 そして精霊暦の前のこよみである天地暦400年に闇の精霊様と光の精霊様が長い戦いを引き起こして光側が勝利して今の精霊暦が始まったのだと。




 そのように先生から歴史を学びながら、私は今までの灰色の風景がまるで色鮮やかに変わったかのような日々を過ごしていました。



 春の柔らかな日和が、夏の陽光に変わっていく中。先生はお兄様のように変わらず私に教鞭を振るってくれたのです。



 その間に先生が王都の学園に行かれるということも知ることになりました。私と先生は同年代で、先生は学園に入学されるのだと。



 私は庶子ですが貴族ということもありますから、おそらく先生よりは簡単な試験で学園に入学することはできるでしょう。


でも私より遥かに優秀な先生と、先生に教わるだけの私が学園で並んでもいいのか。そう疑問に思ったこともあります。



 なにより、お父様が私を学園に入れようと先生を家庭教師にされたのは分かっていました。ただ同時に不可解な点もあったのです。なぜ先生が私の家庭教師になったのか?



 それについてわずかばかりに探っていく中で、ある風景を見ました。

先生は常に私の横を歩かれていたこと、そしてお兄様が毎回ではないものの常に近くで見られたこと。



 そこで私はある結論に至ったのです。

先生は私の家庭教師というのは名目で護衛をされているということに。



 そうなると先生とはお兄様が私のことを諦めるまでしか一緒にいることができない。



 私はお兄様のことは敬愛していましたが、お兄様からの暴力は嫌でした。でも、その暴力の恐怖が終われば先生は去ってしまう。



 そんなジレンマの中。

あの事件が起こりました。

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