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第26話『寝取られ男は救出へ向かう』

「ジョン、もしものことがあったらすぐ戻ってくるんだ。生存確率なら君のほうが高いんだから。それに、まだ君は死ぬべきじゃない」

「分かってる。それより、俺か……もしくは父さんが来たら毒煙を焚いてくれ。どちらにしても生き残られるように最大限努力はする」

 錆びた剣を拳で握ったまま、紐で固くきつく縛り付ける。

疲れて力が抜けても、剣と指が離れないようにするためだ。


「それじゃあ、行ってくる。ボーグ、エリーゼ、後は頼んだぞ」

「っ、ジョン!」

 クソビッチの声が響く。

なんだ。できたらお前とは関わりたくないんだが。


「絶対、死なないでね」

 …………。

死なないで、か。







「敵軍が……4千よ。こっちが残せる部隊は20人と少し、あんたが本当に殿をして生き残れる保証なんてないのよ」


「それくらいわかってる。でも、やらなきゃいけないことだ。俺以外にやれる人間もいない……俺が一番、このパーティーでは命の重さが軽いからな」


「――――ジョン、あんたが死ぬなんて私が許さない。絶対に、死んだら許さないわ。だから、絶対に生きて帰って。他の人間が見捨てても、私だけはあんたが必ず帰ってくるって信じてるから。だから、命だけは捨てないで」


「……あぁ、わかってる。俺は絶対に死なない。絶対にな」







 ハッ。まぁ、ありがたく受け取っておこう。それが嘘か本当かはさておき、俺もまだ死にたくはない。


「――あぁ、わかってる。俺は絶対に死なない。絶対にな」

 さて、向かおうか。

ゴブリン共に俺の初陣を派手に祝ってもらおう。











 入口付近はともかく、洞窟の奥に行けば行くほどに血飛沫とゴブリンの斬り殺された死体が増えていくのが分かる。


 だが……死体はゴブリンだけではない。

一人、息絶えた自警団のメンバーを見つけた。


「ロナ厶さん」

 普段は東の小麦畑を栽培している……中年の独り身のおじさんだった。

若い頃に妻が死んで、それからずっと畑を耕していると。

子供に優しくて、村の人達から愛されていた人だった。


 そんな人があっさりとこんな湿気にまみれて悪臭と血の溢れる死んでいる。

殺し合いというのは、そういうことなのだ。どんな人生やどんな経歴を送っていようが、たった一発の攻撃が命を奪えば……ただの肉塊に変わる。



 ゴブリンの洞窟はゴブリン手製の獣脂を使ったロウソクが壁にへばりついているのだが、ロウソク同士の間隔が広く光の強さはそれほど強くもない。


 そこで俺はロナムさんの死体脇で燃えたまま床に投げ捨てられていた松明を空いた手で拾った。

火はまだ十分燃えている。これで明かりには困らないはずだ。


 


 先へ進んでいくと、やはり血の匂いと血飛沫がどんどんと色濃くなり、死体も増えている。

ゴブリンの数自体はそれほど多くはないように見えるが……人の死体はもう四人も見た。やはり、ゴブリンリーダー持ちの集団であることは間違いなさそうだ。


 正直、連続で人生二度目での知人の死を見て俺だって感情に響かないわけではない。

何なら今すぐにでも吐き散らしたいし、自警団が行く前に止められなかったのかと自分を責めたくなる。二度目の人生で助けられた命を、俺が助けることができなかった。想定外とはいえ、助ける術は頭の中に持っていたはずなのに。


 だが、そんなことを考えたところで死んだ人が生き返ることはない。

蘇生なんてことは魔術や魔法でもない限り不可能だ……それも光属性がAクラスはなければ。


 だから、俺は進む。

これ以上犠牲を増やさないために。

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