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第15話『師匠と愚者/後編』

「無駄だ、無駄なのだよ!!このワタシが!愚者の司祭たるワタシに不可能はない!!」


 何度も執拗に切りつけられるが、なおもピエールは生きていた。


 ピエールの体は既に人形である。

ただの人形ではなく、あらゆる人体や生体を合成させた肉人形の類。 圧倒的な不死性だけが取り柄であり、しかしその立場からすれば、それはピエール本人にとって最善と言える選択であった。



「ワタシが生き永らえれば、竜教会はいくらでも蘇らせられる!ワタシが生きさえすれば! 猊下を死なせることなどありえェェェん!!」


「猊下だと?笑わせるな。 貴様の作り上げた肉人形だろう!」

 

 苛烈に繰り出される無数の土弾。

ピエールの属性は土、ランクはD。先天的にはEだったが、たゆまぬ努力でそこまでに成り上がったのだろう。


「遅い」


 だが、英雄の剣士たるフローレンスにとっては無意味。ピエールの魔術はことごとく避けられ、再びくびや心臓といった急所をいくつも攻撃される。


「ゴフォッ!ゲボッ!グ、ギャァァァアアア!」


 悲鳴がいくつも、何度も響き渡る。

だが、ピエールは死なない。否、死ねない。不死の肉人形ゆえに、その体は幾つもの攻撃を受けようと、時間が巻き戻るかのように再生していく。


「しぶとい男だな」


「ハハハ、ハハ、このまま、戦ってもいいですが……あなたのほうが消耗し、負けるでしょうねぇ。フフ、フフフフフ」


 フローレンスは素早くステップするように三歩下がり、太刀とナイフを構える。



「……不死か」


「えぇ、不死です。ワタシは死にません。おとなしく負けを認められては?」


 しかし、フローレンスは冷静に構えていた。

"不死アンデッド"。原則として、それは運命の法則に外れた存在である。


 つまり、通常は存在できない。

それゆえに、存在を繋げ止めるアンカーがなければならないのだ。


 その最たるものが、魂を縛り付ける呪い。

その呪いは強固であればあるほど使用者に強靭な効果をもたらすが、同時にそれに応じた制約と母体の強さを求められる。


 例えば、グールならば人を喰らうこと。

ヴァンパイアならば血を吸うこと。一方で、ゾンビやスケルトンにはそこまで強い呪いはない。だからこそ、強さの程度が低いのだ。


「母体が弱いために、無理やりに体をつくったか」


「ッ、まずい!」

 ピエールは目を開き、あからさまに動揺する。

だが、まぶたを閉じる暇もなくフローレンスが目前に迫っていた。


「聖別の短剣だ。その身に受けるが良い」


 ザシュリ。

小さな刺突音と共に、ピエールの心臓へと純白のダガーが突き刺さる。


 普段ならば再生している状況。

だがピエールは痙攣を始めた挙句、ゆっくりと体が崩壊していく。



「ああ、ああ、あああああ、竜神様、竜神様、竜神様ァァァァァ!!」


「あっけないな……ん?」

 もはや死への道からは戻れぬピエールを見据えた後に短剣を引き抜こうとしたその時、後ろからジョンが走り寄ってきているのにフローレンスは気づく。


「師匠、師匠! いますぐ祭壇へ向かってください!こいつら……もう儀式を始めていたんだ!!」


「なんだと!?」


「あひゃ、あひゃひゃ、ヒャヒャヒャヒャ、も、もう遅い。遅いのだよ、アヒャヒャヒャヒャ」


 愚者の司祭、ピエールは体の節々から黒い煙を噴き出して朽ち果てていく。だが、その顔には狂気が宿っていた。どす黒く、深々と毒水を蓄えた沼のように。


「待て!」

 そして、砕け散った。

フローレンスの声に応えるより先に、ピエールはその命を終えたのだ。



「……クソッ!私の浅慮が招いたことか!」

 フローレンスは思わず悔しげな言葉を放つ。

だが、ジョンは息を整え終わり、口を開く。



「師匠、今ならまだやれます。俺達なら、止められます」




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