第14話『寝取られ男とイル・ファース/後編』
「少年!!君はなぜ戦う!」
イル・ファースの一撃が鎬を穿つ。
体の心が揺れるほどの重さ。それひとつで、この目の前の男が武人であるということを容赦なく知らしめられる。
「止めるためだ!」
「止めてどうする! 竜神様が顕現すれば、この世はずっと良くなると言うのに!」
ガィン!と曲剣と刀が容赦なくぶつかり、激しくしなる。金属の擦れる音と火花の匂いが辺りに振り撒かれ、その都度にお互いの刃が僅かに欠けていく。
「そんなもの……ただのイカれた理想論だろうが! 強撃!!」
俺は勢いよく地面を蹴り上げ、やつの首めがけて刀を素早く一閃する。
「理想こそが人を救うとなぜわからない!! 反撃ッ!」
武技同士の打ち合いは、互いの練度に左右される。 だが、反撃はその中でも特殊な武技だ。
発動内容は単純で、敵の攻撃を受け流すか、或いは強く受け止めた後に素早い反撃を繰り出す一連の流れを強化する。
基本的に反撃の重さ自体はそこまでないが、使用者の練度が高い水準にあれば凡人の強撃に匹敵する。 つまり、格上にこれを使われると殆ど勝ち目がない。
だが、強者同士の戦いでは反撃で趨勢が決まることはほとんどない。 なぜか? 理由は単純だ。
「破撃」
反撃を破壊することに特化した武技。
破撃があるからにほかならない。
「なッ!? 連続の武技発動は不可能に近いはず!!」
あぁ、そうだ。
師匠はどの人でも、武技は二連続で発動するのが限度。それだけでも一度発動するときの何倍も不可がかかる。
だが、こいつは一つ忘れている。
決定的で、単純なことを。
「強撃は嘘だ、イル・ファース」
風を破るように、刀が白銀にひらめく。
そしてそれがイルファースの曲剣をへし折りながら、その隙を逃さず奴の土手っ腹へと容赦のない短剣の一撃が打ち込まれる。
「ぐぼっ、ゴッ、ガッ、ハァッ……!!」
今までとは比べ物にならないほどの声が響く。
短くとも鋭い刃はイル・ファースの筋肉を切り裂き、内側にまで達している。 まともな治療をしても、生き残られる確率は五分五分だ。
「ハッ、ハッーー……コホッ、ゴホッ」
「ハァ、ハァ……イル・ファース。お前の、負けだ」
満身創痍に震えながら、腹に短剣が突き刺されて膝を崩したイル・ファースの首に刀を突きつける。 刃が折れた曲剣が近くの地面に突き刺さっており、もう剣で攻撃されることはない。
「……終わらないさ」
「なんだと?」
イルファースを見ると、口元から血を垂らしながらほくそ笑んでいた。
「その齢で、私を倒す……なんとも、末恐ろしいよ……フフ、ハハ……でも心地が良い。 なぜだろうね……砂が、見える」
命の糸が切れる音が響く。
イル・ファースは、息絶えていた。
「……終わらない、どういうことだ?まさか―――」
一難去ってまた一難。正直、ここまでやってそうであろうとは考えづらいが……だけど、冒険者時代に何度も味合わされていることでもある。
楽観より警戒。
この状況で最悪を想定すれば……。
「師匠ッ!」
俺は急いで師匠のほうへと向かう。
まさか、もう既に発動してたのか!?




