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第11話『師匠と愚者/前編』

「……フローレンス・ペタル。50年前のストレリチア防衛戦争の英雄───忌々しい男め」


「ほう、竜教会の狂信者でもそのことを知っているのか」

 

 うぞうぞと森の奥から現れだした人形たちを前に限界まで鍛えられた腕で太刀を片手に構え、物怖じせずフローレンスはそう返す。


「だが、いくら貴様といえどこの人形軍には勝てまい。私が十年かけて作り上げた……農民上がりの教徒たちとはわけが違うぞ? 人形軍、やつを叩き潰せ!」


 その一言が合図となり、人形軍が雑多な武器を構えながら一心不乱にフローレンスへと襲いかかる!



「桜流太刀術──散華(サンゲ)


 だが、刹那。

僅かに鞘口が白く閃いたかと思えば……またたくまに、十数体の戦闘人形たちを粉々に切り裂く。



「む……これは───」


 しかし、フローレンスはそう呟けば。

突如顔をこわばらせた。



「ハハ、そうだ。ようやく気づいたか……このピエールの策になァ!!」


 人形から溢れ出たのは血。

しかしそれは人形用の人工血液ではなく───まごうことなく人血であった。


 そしてそのとき。

糸らしきものが切れれば、切られた人形たちから生々しい嗚咽おえつと短い悲鳴が鳴り響く。


「貴様……ッ、まさか罪もなき人々を人形に改造したのか!」


「そうだ。この人形共は木の鎧こそ着せているが実質は我が"操り人形(マリオネット)"!! 人形魔法の真髄だ!!ヒャハハハ!!」 


 ピエールは眼をギョロギョロと限界まで見開き、最大限の外道じみた声を辺り一面に響かせる。


 完全に歪んだ存在。

フローレンスはそう理解し、なんとか操り人形たちへ被害を出さずに最小限でピエールを斬り殺そうと駆け抜ける!!


「はァッ!!」


 そして一人の操り人形を踏み台に飛び上がれば────速やかにピエールへと上段からの右袈裟(みぎけさ)からの斬撃を繰り出す。


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!!」

 悲鳴。

ピエールの右肩から左脇腹まで、斜めに深く切り傷が刻まれる。



 しかし、フローレンスの手には明らかな手応えがなかった。生臭い血液の香り、迫真じみたおぞましい悲鳴、肩の神経が切り落とされたことで痙攣(けいれん)するピエールの腕。


 そう、外観だけならば明らかにそれは致命の一撃。

だが……突如ピエールは笑い出す。



「ヒャハ、ヒャハハッ、ヒャーハッハハハハハハ!!無駄だ、無駄なのだ、英雄ゥ。我が肉体……否、魂はこの有象無象のマリオネットどもに等しく分け与えている!」


「なにッ?だが、人形魔法にそのようなことが……」


「できるのさ!!なぜならば我が肉体そのものが人形なのだからなァァァァッ!!!」


「ガッ……ぐっ」

 そしてわずかに動きが鈍ったフローレンスに対し、明らかに人外じみた蹴りが繰り出される。 



軽装とはいえ仮にも鎧越しでありながら、異常な衝撃にさすがの銀虎の騎士といえどまるでゴム(まり)のように体を空中でくの字に曲げ、喉から絞り出すような声を出す。



 しかし長年の戦闘経験と高められた精神力により、すぐさま奥歯を噛み締め受け身を取り、そのまま後方へと着地する。



「貴様、どれだけの力を……いや、どれだけの生贄をその身に捧げた!」



「愚問だなぁ……私はもうすでに、竜教会の為にこの魂を捧げたのさ」


 特殊な素材による義体なのか、先程の刀傷が徐々に再生していく。そして、ピエールは狂信者らしい歪んだ笑みを浮かべるのだった。

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