第10話『寝取られ男とイル・ファース/前編』
「はぁぁッ!!」
俺から駆け出す。
まずは小手調べ、イルファースの首を狙う……!
「甘い!……くっ」
しかし奴のシミターは刀の刃肌の上を滑り、またたく間に俺の首へと流れるように向かう───しかし既で鍔によって僅かに刃の進みが阻害される。
「まるで剣舞だ。少しでも油断したら首が切られるな」
素早く奴の剣撃をずらし距離を離して正眼に構え直す。
……奴のように片手で構えられないのは俺の体格にある。
11歳。
いくら鍛えても、その体には限度が存在する。成人体格のやつに真正面から対抗するにはあらゆる点で力不足がすぎるんだ。
ゆえに、両手を使う。
かつて東の武士たちは戦闘時の体格差を埋めるため、片手操法から両手操法と呼ばれる方式へと転換した歴史があった。
俺もその歴史に乗っからせてもらう。
イルファース……奴の首を確実に取るには全て出しきらないといけないんだ。
「少年、君はたしかに強い。強いが、このまま続けば有利なのは私の方だろう。……さぁ、どうする!」
やつが素早く前に身を乗り出し、一瞬で目前へ迫る!
縮地か!?
俺は歯を食いしばり、地面に踏ん張り。
そして休む暇もなく繰り出される無数の剣撃を刀で防ぐ。
(まるで前世に戦ったやつとは次元が違うッ。こいつ、竜教会なんて組織にいて良い才能じゃないだろうがよ…ッ!)
A級冒険者。
否、あるいはS級にも届く実力。
一見軽そうに見えて、ハンマーで殴りつけられているような衝撃の攻撃。それが何発も、間髪入れず俺へと襲っくる。
「少年ゥッ!守ってばかりではッ!いつまで経っても私には勝てないぞッ!!」
「好き勝手……言ってろ!」
頬、腕、脇腹、足、手。
弾くことで最小限まで抑えたが、それでも浅い傷がいくつも刻まれていく。
傷から所々プシュッと薄く出血し、小さなダメージがコツコツと蓄積されていくのが十二分に理解できてしまう。
(駄目だ。このままだと、確実に負ける。だがどうする?俺の剣術と今の筋力じゃこいつから真っ向に戦える実力はない)
そう。
俺はあくまでも凡人だ。 この剣の鬼のような奴と真正面から通常の剣術で戦えるほどの技術はない。
浅く広く。
極められるほどの才能や素質がない分……俺は持ち得るすべての技術と別の手段で勝たなければならない!
「さぁ、これで終わりだ。少年ッ!」
ひときわ大きな斬撃が真上から降り注ぐ。
防いでも体勢を崩すのは免れないだろう。そしてその後、俺はとどめを刺される。
だが。
それでも。
俺はこの時を待っていたんだ。
イルファース!!
「反撃!!」
強撃とは別系統の武技。
カウンターと呼ばれるそれは、相手の攻撃ダメージが高ければ高いほど。しかし自身で防ぎきれる範囲のものに対して最大の性能で発動する。
「な!?」
そして奴のシミターは俺のカウンターによって、大きく跳ね返される。普通の攻撃と武技じゃ、ベクトルが違うんだ。
「さぁ、ここから本番と行こうぜ。褐色野郎」
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