第8話『寝取られ男、情報を話す』
「……なるほど。ピエール執事長が」
「はい、おそらくは確定かと。帝国の間者であるという線と竜教会の内通者である線の二つを想定していたのです。表立った活動はしなかったようですが……泳がせていて正解でしたね。あの男は必ず私から無力化してくると思っていました」
師匠とヴィクトリアが紅茶を飲みながらそう話す。
窓からは王都の遠景がよく見え、宵闇に隠れた向こう側の草原地帯も月光で明瞭に見える。
「それでジョン、お前はどうだった?なにかわかったか?」
「あぁ、師匠。俺もいくつか探った結果、ある推論を得たんだ。そしてヴィクトリアが話してくれた事と照らし合わせたら、おそらく確定だと思う」
俺は借りた本……例の帝書を机の上に広げて、二人に内容を見せる。
「長い時の中で、ことごとく粛清を経験してきた竜教会には旗印となる竜に準ずる存在が自体いないことがわかったんだ。"教会"の象徴は神々の聖遺物と聖女たちだけど、竜教会にはそれがない。……ヴィクトリア、ピエールはどんな人物なんだ?」
人形、司祭、狂信者の軍。
そしてピエール。おそらくヴィクトリアが言っていたことを組み立てれば、人形を作ったのは竜教会。となれば司祭たちの誰か、もしくは外雇いの人形魔術師だろう。
俺にはここまで深く竜教会に関わったことはなく、全て未知の領域だ。だが、そうであったとしても俺がA級冒険者に成り上がるまでに得た知識、判断力、技術は……けして無力じゃない。
「あの男は30年前に前代シャムロック辺境伯……私の祖父に雇われた男です。年齢は59、出身は不明……シャムロック教会で助祭となっていたところを、祖父が執事の誘いをかけたと記録にはあります」
つまりピエールは竜教会に属しながら、シャムロック辺境伯領での業務もこなしていたというわけだ。
「そして、随分前にフローレンス卿にあの男のことを着けてもらっていました」
「無論、承っている。シャムロックで頼まれた当時は何だと思ったが……奴はシャムロックから東にある寂れた闇市で魔石と魔導素材を買い込んでいた。そうなるとジョン、お前の意見を聞くと───」
「あぁ。コアの魔石、魔導素材……すべて人形を作るために必要なもの。そしてそれで結論を得られたよ。師匠」
竜教会の象徴。
それはもとからある自然物ではなく、人造物だった。
「ヤツらの象徴は作り物。そしておそらく、その作り物の器に竜を降ろすつもりだ。竜の召喚は、それを殺せば止まる」




