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閑話3『ピエールという男/後編』

 竜教会。

精霊教との宗教戦争でかつて敗北した竜信仰者たちの拠り所。


 精霊教徒の身分として自身が、本来は唾棄せねばならないそれを……不思議と、私は心酔してしまった。



 衰退した宗教、今は失われた竜という強大な力、弾圧され追い込まれた竜信仰の遺民たち。



 精霊教にいたままでいいのか?

精霊教にいたところで、片田舎の神父を受け継ぐだけ。私はもっと強大になれるのではないのか?



 私はそこで決断した。

私がこの竜教会を復興させ、この美しきブロッサミア王国を支配しようと。そして支配した後に、かつて自らの父を底辺のクズにまで押し込めた帝国を滅ぼそうと。



 まるで脳を書き換えられたかのように、私は湧き出る噴水の如き思考と情熱を余すことなく動かし続けた。



 竜教会を復興するため、まずは今も教会があるのかどうかを探った。そして1年ほどの月日が経過したものの、結果として竜教会と接触することができた。



 だが、その当時の竜教会には象徴(イコン)が存在しなかった。 象徴無き教会に正統性はなく、ただ実体無き竜神をひっそりと信仰するだけ。



 それでは駄目だ。

私は表では精霊教の神父を補佐する助祭となりながら、秘密裏に竜教会内での発言力を増していった。



 精霊教の獅子身中の虫となっている中で、私はこの宗教が持ち得る積み重ねられた"信仰のノウハウ"を余すことなく、粗末で落ちぶれた竜教会へと実施し続けたのだ。



 その一方、王国ではバレたら固く罰せられる禁術……人形魔術の禁書を闇市などを駆使して学び続けた。 竜の遺子がいなければ、作ればよかったのだ。




 それから6年ほどが経過し、私は精霊教内でもそこそこの功績を上げ───想定外ではあったが、今のシャムロック辺境伯の父……前辺境伯に目をかけられ、執事として雇われることとなった。



 精霊教の下級聖職者は禁欲に強く礼儀正しいものが多い。王国でも貴族が聖職者に世俗を促し、結果的に雇う例も多くある。



 そしてシャムロック辺境伯の執事となったことでより一層竜教会を極秘に秘匿しながら、人形魔術によって多くの試作品を作り上げていき……ついに、最高傑作が生まれた。




 竜骸の森の竜骨を水属性の大魔石と合成したコアを中心に、ありとあらゆる魔物の素材や人間の部位を使って作られた"象徴(イコン)"、そして竜の器。



 薄く緑翠色の白髪(はくはつ)、精巧に作られた聖女の如き美しさ、きめ細やかな白肌、宝石を彷彿とさせる透き通るような瞳。



 竜教会はようやくそのときに初めて、正統な信仰が生まれた。 竜を現す少女、"教主"は目覚め私に儚げな声をかける。



「貴方は……誰?」


「───私はピエール。"愚者"ピエールでございます、猊下(げいか)

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