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閑話『ルキナ=フィン=アルーセン Ⅱ』

 王都、ローゼット=ブロッサミア。

故郷の街とは大違いで色とりどりの屋根ときれいな建物が並ぶ、花の都。


 ルキナは雪のようにきれいな銀髪を揺らしながら、エリーゼの後ろに隠れて歩いていた。


 先程は想い人であるジョンと再会したのだがどうやら忙しそうでなかなか話しかけることができず、なにより恥ずかしすぎてあがり症になってしまったルキナはどことなく落ち込んでいた。



「ルキナさん……だったかしら?大丈夫?顔が赤くなってるわ」

「だ、大丈夫……ちょっと、人が多くて……」

 

 先程までどす黒い感情をたぎらせていたエリーゼだったが、ルキナは別なのか甲斐甲斐しく心配しているようだ。手をつなぎ、自身の後ろに隠れさせて歩いている。



 ざわざわと鳴り響く人の声。

美しい花の都はいたるところが常に栄えており、それは厳格な階級と統制によって支配された帝国と違った自由の繁栄だった。



(わたしの国は違った。人々はいつも幸福そうだったけれど、常に雪に閉じられて凍った世界)

 

 だが、結局は国とはすなわち弱肉強食。

ブロッサミアが独立を保っていられるのは帝国に対抗可能な軍事力と経済力、そして国を守るという独立精神が強く根付いているから。



(走り去っていく守衛たちの持っている鎧や槍も全く違う。鉄の板と革を組み合わせて作った軽装鎧……槍も鋼。あの装備があれば、今頃国は滅びずに済んだのかな…?)


 現在、ルキナは村から辺境伯を通じて王城へと向かっていた。 亡国の公女、奴隷化を一歩のところで回避したルキナはブロッサミア王家からすれば優先して庇護すべき存在である。


 しかし同時に、今のルキナには一つの目標があった。

あの時。砂塵の魔導師がジョンを殺そうとしたときに出た自らの魔法。


 だいだいルキナの血筋に伝わる秘術で、表立って秘術を使うなと言われる以前……幼き頃、それを大切な人を守る以外に使うなと教わったもの。


 

 それは父母が幼い彼女に理解させるために言っていたのだが、ルキナは秘術の禁忌とは別。それを少し違う方向で勘違いしていたのだ。



 王城に行き、ルキナは庇護される。

おそらくは貴族相当の身分で扱われることだろう。ならば、と。



(いつか、絶対に恋をしたい。大切な人……あの人をもっと知りたいから)


 ルキナの思考は、その魔法を使ったら必ずその人と恋をしなければならないという考えに至っていたのだった。


(故郷から離れて寂しいのかしら?ジョンのことは気になるけど、この子だけは連れて行ってあげないと……)


 エリーゼはその聡明さと美しさもあって村直々に送り出されたルキナの送り人である。 だが流石にこの目の前の氷の公女が考えていることは分からず、ただ心配して手をつなぐ力をわずかに強めるのだった。

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