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第3話『寝取られ男、白昼堂々襲われる』

 太陽が真上に来ている時刻。

青空と白雲がなんとも陽気そうに広がっているその下で、俺は森の方へと向かっていた。



(なるほどな、そういうことか。だからあそこの禁域を……)


 情報は掴んだ。

それを元に考えも再構成した。あとは任務を達成するだけ。


 ガヤガヤと人の波が騒ぎ立つ中を俺はなるべくはやく突き抜けようと歩き進む。



 だが、どこか背中にゾクリという殺気のようなものが先程から警鐘のように鳴り響いていた。


 

 グリップを握る手が強くなる。

衛兵に睨まれてるにしては生々しい殺気だ。これは一体―――。



 刹那、俺の首筋に冷たいなにかが突き付けられた。

氷の類でもなければ、爪先を当てられているわけではない。鉄の感覚……完全に金属だ。



「……こんな子供を殺そうとするなんてイカれてるんじゃないのか?」


「テメェが"砂の司教"をこてんぱんにやった事は知ってルんダ。 それに……この町中だト刀も抜けねエだロ?」


 片言の西方語。異人か。

そして砂の司教……あの火薬槍使ってきたイル・ファースとかいう男か?



「なるほど。竜教会はこんなガキ一人にわざわざ執着するほどに追い込まれてるんだな」


「ハッ、ちげぇヨ……お前は異常ダ。 クソガキ……そんな大層な刀持ってる時点デ勘付いてんだワ」


 首に押し付けられた鉄の感覚がどんどんと強まる。

俺の首筋を切ってそのままトンズラするつもりだな。



 だがここで刀を抜いたところで、俺はこいつを殺すには至らないだろう。 むしろ今逃げられた場合、俺は刀傷沙汰を町中に持ち込んだ犯罪者になりかねない。



 ましてや、あの悪夢を見せてきたことを察するにこいつらは洗脳系の秘術を持ち込んでる可能性だって十分ある。もし殺したところで、身元が単なる市民だったりした場合――仮に仕留めたと言っても俺は殺人鬼。


「クソガキ、最期に言い残したいことはあるカ?」


「……そうだな」


 うまいことやったな。

俺の退路と活路を潰して、最高の手段を見つけたつもりなんだろう。



 俺が武術を覚えたばかりの頃なら、とっくにパニックになって殺されてるか無鉄砲に切りかかってるに違いない。



 だが……だがな。

"こんなこと"、何度も経験してるんだ。




「ア?」


 男の驚いた声が響く。

当然だろう。 俺は刀を抜いてない。ましてや動いてすらない。



 ただ――肘鉄を腹に食らわせただけだ。

無論、鉄の刃が首筋を引き切ろうと動き出す感覚がひしひしと感じる。このままだと反射したこいつに斬り殺されるだろう。



 だが、構わない。

町中ということもあってこいつは最低限の動作で俺を殺そうとしてくるはず。 



 そして今のでわかった。

押し通せることが。



「ッ!?」

 

 男のナイフの動きがピタリと止まる。

そして俺が体を動かさず背へ向けた手が構えていたのは刀ではなく……ピストルだ。

  


「……オイオイ、ここで撃ったらお前は犯罪者だゼ?俺が操り人形だって考えもねエほど馬鹿なガキだったとハ」


「反射が早すぎるんだよ、お前」


「ッ」


 男の声が詰まる感覚が響いた。

当たりか。



「洗脳者や操り人形は動きが僅かに鈍いんだ。 マリオネットが糸を動かして腕や体を曲げるときにタイムラグがあるように……いくら性能の高い秘術でもそこは改善しきれない」



「……」


 前世で俺も操り人形と戦ったことはある。

なんなら、パーティー時代に俺がたまたまソロで受けた依頼が気に食わずに操り人形の暗殺者を送ってきたクズも数え切れないほどいる。



 だが、そんな連中は等しくこいつも同じように俺が反撃できない状況下で攻めてきた。 街中はもちろんのこと、宿屋の給仕に偽装したり、依頼者に似せてきたり。 どこから調達したのか生身の人間を使ってきた連中もいる。



 しかし、こういう連中への対処法はだいたいが一つ。

反射速度の違いで見分ける、だ。


 操り人形相手なら思い切りがいいのでこちらが肘鉄を食らわせる前に斬り殺そうとしてくる。 もしくは肘鉄を食らわせたあとに反撃もしてくるが……遅い。



 だが生身の暗殺者なら、対象の反撃を伺ってくる。

故にああやって間を持たせて警戒するんだ。そして……。



「ここでナイフ止めるってことは、お前幹部だな?司教か?」


「……テメェに言う義理はねェナ」

 

 バレバレだよ、馬鹿野郎。

自分の役目がある人間以外にこうやって躊躇うやつがいるか。



 さて、今からが本番になる。

こいつをどう対処するか、どう撃退するか。……一番俺の慣れてる領分だ。

お久しぶりです

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