第2話『寝取られ男と情報収集』
『まだすぐには森へ行けない。ジョン、その間は情報収集に努めてくれ』
翌朝、師匠からそう言われた俺はひとまず王都の図書館へ訪れていた。
人の声は少なく、静か。
たまに物音や小さな話し声はするものの、それ以外は特に平穏この上ない場所で――本棚には多種多様な本が置かれている。
尤も、帝国ではこのように気軽に入れる図書館というものはあまりないと聞く。 あそこはブロッサミアと違って良くも悪くも権威主義……だから平民が図書館へ気軽に出入りすることなど出来はしない。
「あの……」
「はいはい、なんでしょう? なにか探されたい本がありますか?」
小さく俺が声をかけたら、すぐに眼鏡をかけた温和そうな青年が受け答えてくれる。
「その、竜教会についての本を探しているのですが……」
「竜教会―――えぇと、信仰系のものは置いていませんが、歴史学的なものは置いていますよ。 ここいらなら……クーヘンハイム考察とかどうでしょう?」
青年は素早く立ち上がると、俺を適当な場所へ案内してくれる。 そして俺にある本を渡してきた。
「クーヘンハイム考察、ですか」
「えぇ、そうです。といってもヴァーネルト・フォン・クーヘンハイム子爵が竜教会について資料と見識の上で考察を行った……いわゆる"帝書"なのですが」
帝書。
それは帝国の本という事を指す。 そして自由主義のブロッサミアでも帝国本は関所の時点で検閲などを行われることが多い。
帝国から王国を浸食するためのスパイが来ることも多々あるのだ。 仕方ない話ではあるのだが、危険な思想本といったものを除外する必要性はある。
そして王国民にとっても帝書はあまりプラスな印象はない。むしろマイナスだ……だからこそ、青年はわざわざ俺に聞いてくれているのだろう。
「大丈夫です、ありがとうございます」
俺はそう言って青年から本を受け取る。
貴族が書いた本特有の鹿革の質感にどことない高級感を抱きながら、俺はその本の題名を改めて見た。
クーヘンハイム考察。
短く西方文字でそう書かれていること……貴族の本にありがちなゴテゴテとした金刺繍がなく、ただ質実剛健な事に好印象をいだきながら俺は静かに本のページを開くのだった。
そして、1ページ目に書かれていたこと。
それは長々とした文章ではなく、執筆者である子爵の一言のようなものだ。
『本書は竜教会について私が自らの見識と多くの資料を持って執筆したものである。 竜教会……精霊教に争い負けたその組織が一体どんなものなのか―――あなたたちは知る必要がある』




