これがVtuberだ!!
カノン先輩は感謝を伝える相手の名前を次々に発表していく。
《ルルミさんとホノカさんにも常々お世話になっておりますわ。最初のコラボの時も快く引き受けて下さいましたし》
【思い出深いな】
【正直あのコラボでお嬢様を知ったファンも多いと思う】
コラボというのは案外難しいものだ。
誰のチャンネルでやるか、そもそも自分にとってメリットがあるのか、という思惑から引き受けてもらえない場合もある。
実現させるためには信頼関係と、お互いを尊重する姿勢が必要になる。誰か一人が目立って終わり……ではダメなのだ。
《声をかけた時から、二人ともとても良い子だと思いましたわ。まさか後であんな事件に付き合わせるとは思ってもみませんでしたが……重ねてお礼を申し上げたいですわね》
【あの時は凄かったな】
【本当に仲が良くなきゃ助けに来ないだろ】
【全員の絆がすごい】
「だってよ、瑠美?」
「……うっさい」
隣のソファーでは、ちょっと照れた様子の瑠美が配信画面を覗き込んでいる。表情は普段通りだけど、心なしかソワソワした雰囲気が伝わってきて嬉しそうだ。
【ルルミも見てんのかな?】
【思えばあいつが全ての始まり】
【ツンデレて『……うっさい(照れ)』とか言ってて欲しい】
「ぅっ……うっせえわ!!」
お、ささやかな抵抗?
可愛い〜。
《ふふ。それがあの子の可愛らしい所です》
「うぇっ!? にゅ……にゅぅぅぅ……」
恥ずかしさのあまり、謎の鳴き声をあげてショートしてしまった。
え、うちの妹、可愛すぎん……?
【そうして照れた妹を見て姉はニヤけると】
【分かりきった話や】
【このコメ欄、予言者多い。】
いやエスパーかお前ら。
ニヤけないはずがないだろ。
何なら「妹可愛い 結婚」で検索したよ。
「うわ、何調べてんの? キモ……ッ」
「あっ」
み、見ないで!
そんな目で見つめないで……!!
《そうそう、今日はいろんな人からお祝いのメッセージが届いておりますの! まずはホノカさんからですわ!》
《は〜い、皆さんおはこんにちわー! 先輩たちも、この度はご結婚おめでとうございま〜す!!》
《……て、ちょ!?》
【今、何と?】
【俺らは聞き逃さないぜ】
【ご結婚……ついにそこまで……】
【キターーーーーーーーー!!!】
【キーマワシタワーーーーーーーー!!!】
【今後カップルチャンネルにしない?】
【それあり】
【vtuber史上初の試みやん】
【いいねーどんどん記録打ち立ててけ】
【凝った内容とかいらないからずっとイチャラブしててクレメンス】
《あはは、見られるのは恥ずかしいかなぁ》
《み、見せるわけないじゃありませんの! マリモの可愛い所はぜんぶ私の物ですわ!》
《やきもち焼くカノンちゃん、可愛い……》
《て、何で頭をヨシヨシするんですの!? 恥ずかしいからおやめなさい〜ッ!!》
【やばい幸せ】
【割と本気でカップルチャンネルにして】
【もう炎上とかしなくていいから】
【頑張って炎上してきたみたいな言い方草】
【むしろ自然なんだよなぁ】
【息をするように炎上する系お嬢様】
《こら、いいかげんヨシヨシやめなさい! やめないと私もヨシヨシしますわよ!》
《えー、やって〜〜♪》
【あぁぁ死ぬぅ】
【いま間違いなく俺のQOLが上がった。】
【百合は鬱に効く】
【万能薬説ある】
「ふふっ……みんな喜んでるなぁ」
ホノカに事前に思い切り焚き付けろと指示しておいた甲斐があった。
《あ、あと一応Yさんからも届いております。別に特別な意図はありませんのよ? だからどうか炎上だけは……》
【ビビってて草】
【お前らお嬢様をいじめるな】
【すまんかった。ぜひマリモたんは可哀想なお嬢様をもっと可哀想になるくらいに慰めてやってあげて下さい。】
【確信犯ww】
《あーあー……聞こえてる? カノンちゃんマリモちゃん、この度はおめでとうございます。スタッフ一同、心より応援しています。ささやかですが、御祝いのケーキを送らせていただきました。後で仲良く食べて下さい。スタッフ代表、Yより♪》
【え、ちょっと待って!?】
【声可愛すぎない……?】
【これ地声だよね】
【別にわざわざ声作る必要もないし】
【ありえんロリボ】
【ユウたんとはまた違った響き】
【甘ったるくないのがいいね】
【例えるならユウの声はカスタードクリームで、こっちのは甘さ控えめの生クリームみたいな上品な味わいって感じ】
【めっちゃ分かる。絶対いい匂いしそう】
【ソムリエ風だけどロリボの感想で草】
【お前らロリのことになると語彙力高いな】
「ん、通知だ……吉田さんから?」
アプリを開くとメッセージとともに写真が添付されており、白いワンピースを着た吉田さんが映し出されていた。
《この店で先輩達のケーキ買ったんだ〜! 今度ふたりで行ってみようぜ〜!》
「ふぉおおおおおおお!!!!」
眩しい笑顔でこちらにピースする姿は正に天使さながら。この世で一番天使に近い人間は吉田さんかも知れないと思わせるような、筆舌に尽くし難い清楚感だった。
「うわ可愛い、吉田さん可愛いすぎん!? いっそ嫁にしたろか……!?」
「ダメ」
「え……?」
「それ見るの禁止」
何故か瑠美に止められた。
何か気に障ることでもあったんだろうか。
「チッ……と結婚するって言った癖に……」
「ほぇ、何か言った?」
「何でもないっ!!」
いきなり怒られた。
解せぬ。
《最後にお礼を言いたい人……もちろん貴女ですわ、マリモ。お礼というべきかお詫びというべきか、これからも迷惑をかけることになるとは思いますが、こんな私でいいのなら末長く一緒にいさせて欲しいですの》
《もちろんだよ……ねぇ、カノンちゃん》
《え、何ですの? 突然顔を近づけて》
《ちゅっ♡》
《な……ななななな〜〜〜〜〜〜ッ!!》
《えへへ♡ ということで皆さん、私たちをこれからもよろしくお願いします〜♪》
【にゃあああああああんんん!?】
【うぉおおおおおおおんんんんん??】
【ぱぉおおおおおおおおんんんん!?!?】
【アカン壊れた】
【みんな人間やめたんか】
【言語を喪失した】
【誰だよ百合は健康に良いとか言ったヤツ】
【脳に直接大ダメージやん】
《さて、短い間でしたが今日もお付き合いいただいて誠に感謝……》
「ってちょっと待ったんかぁああいッ!!」
大切な後輩への感謝を一人忘れているが?
お前らの血は何色だ……?
【ちょwwこれww】
【約一名忘却されてんの草】
【美しい絆なんて嘘だったんや】
【まぁ現実なんてこんなもんですよ】
【知りとうなかった……なかったんや……】
《もぉカノンちゃん、意地張らないの〜! このこの〜!!》
《ひゃぁんッ!? だから脇腹をつつくのはヤメなさいあれほど……!!》
《本当は照れ臭くて言えなくなってただけだもんね〜?》
《ち、違いますわ。今から言おうと思ってタイミングを見計らっていたんですわ!》
《はいはい。何でも良いから》
《ふ、ふんだ……ユウ、聞いていますの?》
「え、な……何?」
《アナタには今回の件だけでなく、今までに何回も助けられてきましたわ。こうして後輩と話せるようになったのも、ファンと上手く接することができるようになったのも、間違いなくアナタの力添えがあったからこそ出来たことですの。私は本当に……感謝しておりますのよ。……だから……だから》
口籠もった先輩はとても恥ずかしそうに、けれど大きな声ではっきりと言った。
《……ありがとうぅぅ……私の、私の友達になって欲しいんですの〜〜ッ!!》
「そんな……」
ずっと最初から友達のつもりだった。
でも、声に出して伝えてくれるなんて。
《今、ユウちゃんに電話かけるから。もしもし、聴こえる〜?》
「うぉおおおおおんんん……!!!」
《うわ、泣いてる!? 大丈夫〜?》
「だっで……! 嬉じぐて……!!」
《私からもありがとうね、ユウちゃん。私を友達と引き会わせてくれたのも、大切な人と結びつけてくれたのも、みんなユウちゃんのお陰だよ。ユウちゃんには不思議と人を惹きつける力があるんだね。今日はみんなユウちゃんにお礼が言いたかったと思う》
【その通りだな】
【こいつが居たから楽しくなったんだ】
【変態幼女だけど周囲を笑顔にしようとする心意気は本物。】
【ありがとう夜来ユウ!!】
【ありがとうー!!!】
【thanks!!!!!】
【お前のこと大好きだーーーー!!!!】
【誰が何言おうとお前が一番最高ーーー!】
「良かったね」
背中からギュッと抱きしめられた。
「私も、あんがと。ここまで来れたのバカのお陰かも」
《ユウ。何か一言どうですの? みんな貴方の言葉を聞きたがっていますのよ?》
「みんなぁ……!」
鼻をすすりながら言葉を考える。
今一番、伝えたい言葉って何だろう。
「みんな……大好きだぁぁあああああ!!」
【俺もーーーーーーー!!!】
【ここにいるみんな大好きだ!!!!!】
【楽しい時間をありがとう!!!!!】
【お前が居てくれて良かったぁああ!!!】
「どんな時も、どんな時代でも、楽しいことは見つけられる! 楽しもうとする心さえあれば‼︎ 毎日つまらないと思ってる人、自分が一人ぼっちだと思ってる人、みんなみんな同じなんだ、お前らだけじゃない!!!! だけどもし……どうしても、どうしても楽しい気持ちになれない日がきたら……」
涙を拭う。笑おう。
みんなにも笑ってて欲しいから。
「そのときは、Vtuberの配信を見に来い! 絶対絶対、みんな笑わせてやるからな!!!!」
【ありがとう!!!!】
【そこまで言ってくれるなんて……!!】
【オジサン心がぴょんぴょんしちゃう】
【本当に〜〜!?】
【そ、そのためならエッチなお願いも聞いてくれるんですか!?】
【もう趣旨変わってんぞww】
【少しは堪えろお前らww】
「任せろ、お前らのためならやってやる!」
【言ったな?】
【はい、決まり。】
【野郎ども投票だぁぁああああ!!!】
<<命令:エッチな感じで妹に告白する>>
「相変わらず誰だ、このヘンタイッ!?」
【やらないの?】
【あんだけ言っといてその程度の覚悟?】
【いまさら罵倒か? 効かねえなぁ??】
【それ、むしろご褒美だから。】
【全員レベル高えよwww】
【やーれ、やーれ♡】
【早く言えッ♪】
「ちくしょう……覚えてろよ、おまえら」
「『てなわけで、結婚しよルルミちゃん♡ あ、ちなみに結婚したらエッチなことし放題だからにゃ〜ん?♡♡♡』」
「……」
どうだ、言ってやったぞ!
【す、すげぇww】
【いやマジで尊敬するんだけど(笑)】
【実際妹いるから痛いほど気持ち分かる】
【よく死にたくならないな……?】
【夜来ユウ見直したわ】
【こいつの覚悟は本物。】
【あれ、感動シーンどこいった?ww】
さあルルミ、思う存分罵倒しなさい!
それが妹たる者の使命だ!!!
「いいよ」
「へっ?」
《で、ですの……ッ!!!!???》
《ほぇぇええええええええ〜〜っ!?!?》
【何ぃいいいいいいいいいい!?!?!?】
【ここに来て姉妹百合だとぉおおおお!?】
【受けと攻めはどっちだぁあああ!?!?】
【テメェら俺の感動返せぇえええええええ!!!!!】
【あーあ、ダメだこりゃwww】
「ルルミちゃん……『いいよ』って……?」
「いいよ。その代わり、エッチな事は私が一方的にやるから。そしたら『し放題』でも構わないよ。節操のないメスガキは徹底的に『理解らせ』て妹にプロポーズした直後に他の人をベタ褒めするなんてことがないようにしっかり再教育しないと……」
え、まさかさっきの根に持ってたの?
可愛い、けど怖い、けど……可愛い!!!
「何だ、気にしてたの? 可愛いなぁもう、ルルミちゃんは。もう冗談はいいから、後ろからギュッとするその手を離して?」
「いや、冗談じゃないから」
「…………えっ?」
【これって、つまり……?】
【お決まりの展開。】
【だよなぁ〜?】
【お嬢様、お願いします。】
《え、え、まさか、これで終わりですの? いいんですの、これで、本当に……?》
《ふふっ。いいんじゃない、カノンちゃん。いつもの私達らしいじゃん》
《……まぁ、言われてみればその通りですわね》
「良くないよ! 助けてぇええええッ!?」
《ふん、節操のないメスガキにはお仕置きが必要ですわ。ルルミさんにしっかり頼みましょう。それでは皆様、また明日ですの〜!》
《またね〜〜♪》
【おつーー】
【お疲れ様ーーーー!!!】
【楽しかったーーーーー!】
【おつかれ〜】
【乙】
【次回も楽しみにしてるぞ〜〜!!】
「ぜんぜん楽しみじゃなぁ……にゃあああああああああああんんんん!?!?♡♡♡♡♡♡♡」
というわけで完結です! ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございました!!




