デート!!
暖かくなってきたので衣替えの季節になってきた。俺は最近冬物のダウンを着るのをやめて春物のピンク色パーカーを着るようになった。それだけなら普通だが、何と言っても注目すべきはこれだ。
「今日はまた、可愛らしいカバンだね」
「でしょぉ〜!?♪」
そう、プ◯キュアの柄入りのカバンである。新シリーズが始まったので、もう今くらいしか使えない。旬が過ぎる前にせめて一回くらいは、と思い切って提げてきた。
「はは、そうしてると本当に小さい子みたいだな」
「だって吉田さんもその方が好きでしょ?」
「うっ……否定できない」
そういう吉田さんもオシャレに余念がない。幼女化してから日が浅いにも関わらず、ダボっとした白トレーナーにホットパンツと黒ニーソを合わせるという上級コーデを着こなしている。
「吉田さんこそオシャレだよね。可愛いから周りの人みんな見てるよ?」
「気のせいだって、きっとみんな君のことを見てるんだよ」
あうぅ。口説かないで下さい。
イケメンには耐性があってもイケメン幼女にはないのです……。
「それにこれは俺じゃなくて、母さんが用意してくれたものだから」
「お母さんがコーディネートを?」
「うん。あれからまだ親父は狼狽えているけど、母さんは受け入れた途端にハッスルしてしまって……どうやら娘を育てたことがないから新鮮らしい」
「あー、それはうちのお父さんも同じだよ」
やたらと給料をくれたり、欲しいものをねだったら買ってくれたり。
「いや、それは同じなのか……?」
「え〜違うの?」
「……まぁ、いいか。そろそろ目的地だけど混んでるな。はぐれないように手を繋いで行こう」
「わわっ……!」
勢いでさっきも触ったけど、ぷにぷにの手のひらは本当に柔らかくて小さくて、しっかりしている性格とのギャップに思わずキュンとする。これって端から見たらまるでデートじゃない……?
「きゅんきゅん……!」
「ん、どうした?」
「い、いや別に何でも……!」
ざわざわざわっ……!
「おい、見たか今の……?」
「ああ。やばかったな」
「まったく心臓に悪いぜ」
「無自覚百合なんてふつくしすぎる……」
「尊い」
「あの子たちの将来に期待だ」
「今はそっとしておこう」
「……各自撤退。速やかに散開せよ」
「「「「ラジャー」」」」
さぁぁ……。
あれ、なんか人混みが減ったような?
まあ気のせいか。
吉田さんの手、柔らかいなぁ〜♪
「着いたよ」
「ハッ……!」
思わずトリップしていた。目の前にあるのは都内にある某スマホ直営店。今日は吉田さんの買い物に付き合うと共に、新しい機種を視察しに来たのだ。最近新しい料金プランも発表されたことだし、ついでにね。
「じゃあ早速行こう!」
「おいおい、落ち着けよ」
なんて言って飛び込んだ瞬間だった。
「お、お客様、そのようなご要望はNGです! お伺いできません!」
「なんでだ、分からないって言ってるだろうが!」
お、何かトラブルか……?
というかこの口調、どこかで聞いた覚えがあるような?
「し、新料金プランはお客様ご本人に設定していただくようになっておりまして!」
「うるさい、これくらいやってくれてもいいだろうが!」
「いやぁああ! DVモラハラ夫予備軍は NGぃいいいいい!!!!」
「いや、別に誘ってはいないんだが……?」
あ、あれは先日の喫茶店でお世話になった店員さんじゃないか! バイト先を変えたのか、それともかけもちか。前回の件でクビになったりしてないといいけど……。
「お客様、対応代わりました。私、黒岩と申します」
おっ、なんかキリッとした感じの女の店員さんが出てきた。背も高いし宝塚のスターみたいだな。
「大変申し訳ありません。そのプランはコストカットのために当店を含めて店舗での契約が出来ない仕様となっております。手順等はご説明致しますので、何卒ご了承下さい」
「そ、そうなのか。なら仕方ない、手順を教えてくれ」
「かしこまりました」
遠巻きで見ていた人達から感嘆の声があがる。こういう時に場を収められる人は重宝されるよな。
「あぁ、黒岩先輩カッコいい……先輩なら私OKぇ……OKなのかも♡」
おっと、なんか頬を染めてトリップしている店員さんが約一名。ちょうどいい。暇そうな彼女に聞いてみよう。
「すみません、新しいタブレットの種類ってどれですか?」
「あっ、ハイ! ただいま……ってアンタは!?」
「ど、どうも……」
「ん、"アンタ"?」
お客様相手らしからぬ呼び名にカッコいい方の店員さんが振り返る。……なんか嫌な予感がするな。
「いやぁああ! ガチロリぃ!? ガチロリは絶対絶対、ぜぇっっったいNGぃいいいいいいいい!!!!」
ざわざわざわっ……!!
「ガチロリ?」
「今あの店員さん何つった?」
あぁん、やっちゃった。
注目されて恥ずかしいよぉ!
「て何を叫んどるか、名越ぃいいいいい!!!」
さっきのお客様の対応を終えたお姉さんがすっとんできた。折角のデートなのに先が思いやられる…………トホホ。




