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青天の霹靂

<< 最近の夜来ユウについて語るスレ >>

………

101:どんどん清楚になってね?

102:これは結婚引退パターンか

103:え、マ? 許せんわ

104:でもあそこ一応恋人禁止っしょ

105:建前に決まってんだろ。

106:今頃マリモたんも知らない男と……

107:あぁぁああああ!!!!!

108:やめろぉおおおおお!!!!!

………

225:人ってそんなに簡単に変われるもんか?


◇◇◇


「うぉおおおおおおんんん!!!!」


《きょ、今日はどうした? 一段と荒れてるな》


「瑠美がぁ……! カノンしぇんぱいもぉ……!」


《え、何? 何言ってるか分かんないよ?》


 夜、吉田さんとビデオ通話をしていた。

 近頃よくこうして夜な夜な与太話をする。


「分かんなくてもいいの、何となく聞いてくれるだけで安心するから……ヒック」


《おいおい、大丈夫か?》


 左右に分割されて映し出された双方の手元にはビールの缶が握られている。オンライン飲み会である。


 付き合ってよー、とねだったら快くOKしてくれた。


「よってらいれすぅっ……!」


《あー、大分回ってるな。こりゃ》


 今日は酒の力を借りて情報を引き出す作戦だったのだが、どうも酔いが回るのが早い。おかしいな。前はもっと行けたはずなのに。


 ま、まさかここにも幼女化の弊害が!?

 チクショウ許せん、大人から楽しみを奪いやがって……!


 既に意識は半分夢の中。うっかり口を滑らせないよう、カノン先輩たちの恋愛事情に関してだけは話さないよう気を引き締める。


「吉田さんは最近どう?」


《そうだな……主に君たちのグッズを作る仕事に携わってるけど、売れ行きは好調だよ》


「どんな感じ?」


《うーん、キーホルダーとかの小物系から、タオルとかTシャツとかまでいろいろある》


「ほう。ちなみに、誰が人気?」


《今の所はトントンかな。基本的には昔からいる先輩達の方がファンが多い分強いけど、特定の層に人気がある人もいるからな〜。あ、特に君とか》


「あっ……」


 何となく想像がついた。


《後、物によっては今季のアニメとのコラボ商品なんかもあって面白いよ》


「今季のアニメか。百合ノ塚先生のとか?」


 百合ノ塚先生とは今売れっ子の漫画家で、百合系の作品で知られている。特に去年から作品のクオリティと共に人気が急上昇し、一躍有名人となった。一部界隈では「百合神」などと呼ぶ声もあるほどである。


《おお……またコアな所を。確かに先生のキャラデザインは男女ともにウケがいいからよく見させて貰ってるけどね。今季のアニメ化作品もネットの評判がよくて、原作が飛ぶように売れてるみたいだよ》


「あー、あれ面白いよね!」


 『悪役令嬢と愛娘』は先生の代表作にして出世作。百合漫画の金字塔と呼ばれ、多くの人々を百合の沼に引きずり込んだと言われる伝説の名作である。


 主人公の悪役令嬢は超絶美少女にして学園の生徒会長。


 厳格な性格で生徒達から恐れられていたが、ひょんなことで知り合った後輩のことが気になり、交流を深めるうちに二人が互いに惹かれあっていくという王道ストーリー。


 序盤から主人公と後輩女子の甘々イチャラブ展開(イベント)が盛り沢山で、完結から一年が過ぎた現在も糖分の過剰摂取による失神に似た症状で救急搬送される読者が後を経たない。


 倒れた人の自宅には大抵の場合、大量の鼻血の海が広がっているそうな。新規読者諸君はくれぐれも失血死に注意と巻末に記されているのも頷ける。


「あれって誰がコラボするの?」


《取り敢えずいろいろと作った。だけどなかでも、カノンお嬢様とマリモちゃんの組み合わせだけが異常な人気を誇っていて……》


「確かにハマり役だもんね」


 お嬢様と後輩キャラ。アバターの設定もさることながら、ファンが知らない筈の現実の姿までそっくりという、まさに奇跡の一致。


 カノン先輩とマリ先輩のカップリングも有名だし、あのコラボグッズは相当話題になるに違いない。


「ふわ〜ぁ……! ……ちょっと眠くなってきたかも……」


《大丈夫? 早く寝なよ》


「ありがと。吉田さんはみんなに優しいね」


《いやいや……昔、とある人を傷つけたことがあってね。それ以来、思わぬすれ違いが起きないように注意することにしてるんだ》


「ふーん……」


 何か過去に過ちを犯したんだろうか。


 あぁ、だめだ、何も考えられない。

 とにかく眠い。

 


 ……今日はもう寝よう。

 ……パジャマに着替えないと。


「おやしゅみ」


《うん……て、ちょ! 映像がまだ……!》


「ひかりゅパジャマにきがえなきゃ〜♪」


《まずい!! つ、通話を切らないと!?》


 ……トントントン、ガチャ。


《ちょっとショウちゃ〜ん、下まで声が響いてるんだけど? 夜に騒がないでっていつもあれほど……あら、その映像は……?》


《か、母さん! これは……!》


《しょ、ショウちゃん……! 貴方まさか、いけないビデオに手を染めたのね!? いくらエッチだからって小さい子はダメぇッ!》


《違うんだ!! 母さぁぁあああん!?》


《なんだ、騒がしいな……ショウか?》


《と、父さんまで!? 早く切らないと……!》



 ピッ。



 映像が途切れる。


「ふぇ?」


「ったく、話を大きくしやがって」


 振り返ると瑠美がいた。

 いつから居たんだろう。


「バカ。金輪際、アンタは禁酒ね」


「しょ、しょんなぁ……!?」


 部屋の灯りを消し、俺を布団まで運ぶと、瑠美はPCを閉じながら何か一言呟いた。


「……あれだけは……かんな、ショウ」


 何と言ったのか考える暇もなく、俺の意識は闇の中に吸い込まれた。


◇◇◇


 翌朝。二日酔いの頭痛に苛まれつつ、朝食にありつくためにリビングに向かう。


「う〜、頭いてぇ」


「バカ。無理に飲むからでしょ」


「へいへい……って、あれ、言ったっけ?」


 首を傾げる俺をよそに父さんはニュースを眺めている。連日テレワークなせいで今日も無精髭が濃い。


「……一ノ瀬グループ黒字に転換、か」


「うん?」


 視線の先にあるTVの中では、情報番組の美人キャスターがニュースの解説をしていた。


 何でも一ノ瀬グループの収益が黒字に転換したそうである。


 ちなみに一ノ瀬グループとは古くからある大企業で、国内でいろんな事業を手広く行なっている。


「それがどうかしたの?」


「いや……ちょっと前まで赤字だったのに、よく元に戻ったなぁって」


「あー、何でだろうね?」


「さぁ。下請けとかに押し付けたんかね?」


 マジかよ。やっぱ闇深いわ。TVでは褒めてばっかりなのでネットを見ると、確かに子会社の従業員が大量に解雇されていた。


 これが社会の実態か。

 あぁ、働きたくないでござる……!


「あ、瑠美、電話」


「んー……って、会社からじゃん」


 誰かと思えば運営か。

 朝っぱらから何の用事だろう。


「もしもし。はい……はい……え、カノン先輩の連絡先? ちょっと個人のは……」


「……どうしたの?」


 小声で尋ねると、瑠美はスマホを遠ざけて教えてくれる。


「カノン先輩の連絡先を知りたいって、何か先輩の"お兄さん"から連絡が来たって」


「先輩の……お兄さん?」


 すぐに俺の元へも電話がかかってきた。

 なんだろう、心なしか嫌な予感がする。

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[一言] 吉田さん 南無
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