第二次歌謡大戦
2人は歌配信に移り、カノン先輩が次の段取りを発表する。
《今回は歌配信ですが、それだけだと何なので恒例の歌対決ですわ!》
《なっ……!?》
《今回も罰ゲームがありましてよ。勝者は敗者に一つだけ命令していい決まりですの》
【また嫌な予感しかしないw】
【センシティブは見られますか?】
【↑臨戦態勢早いよ……】
【is this ecchi part ?】
【海外ニキ笑】
【どこで察知したのwww】
《おかしいですわね……コラボの極意はユウさんにご教授いただいた筈ですのに》
【それがいけないw】
【それが敗因やぞ】
《やっぱりアイツかぁあああ!!》
そうして始まった歌対決。歌唱力で売っているホノカはさておき、カノン先輩には歌のイメージがない。
大のお婆ちゃん子だったという先輩。
一体どんな曲を歌うんだろう。
《まずは私からか。どんな歌がいいかな?》
《視聴者から要望が届いていますわ。一番多かったジャンルは……"ラブソング"となっていますわね》
《やっぱそうか、みんな好きだもんね》
そう言って選んだホノカの曲は、やはり今時の若者が歌いそうな流行歌だった。王道の選曲に文句をつけさせない圧巻の歌声でリスナー達を湧かせる。
《やはり……上手い、ですわね》
染み染みと呟くカノン先輩。
俺の時も同じ反応だったが、彼女の歌声を前にして生半可な覚悟ではリスナー達は認めてくれない。
おどけるなら本気でおどける。
歌うなら全力で歌う。
選択を迫られる局面にきている。
カノン先輩の選択は?
《どうやら付け焼き刃では相手になりませんね。早速ですが、私の十八番をお見せする時が来たようですの》
【なんか凄そう】
【お嬢様って上手いの?】
【なかなかやで】
【ファンの間では結構知られてる】
【ただ……選曲がちょっとね】
【ね……w】
《な、何? 選曲に何か問題でもあるの?》
《失敬な。ユウさんでもあるまいし》
おい、お前ら大概にしろ?
《では歌いますの……いざっ!!!》
《何の曲だろ〜?》
♪……デッデッデデッデデン・ドンッ!
♪……デッデッデデッデデン・ドンッ!
【あーこれか】
【今回はこれね】
【お嬢様の十八番いくつかあるのよね】
【いや……何これ?】
【聞いたことない】
【分からんw】
【やっぱ世代によるな】
【俺らギリだから】
【いやお前ら幾つなの……?】
<< 曲名:『また逢う日まで』(1971)>>
《いや古っ!?!?》
【お婆ちゃん子だと言っただろう】
【家臣達の間では一般常識】
【お嬢様は、昭和に生きてる。】
《♪♪♪♪…♪♪♪♪♪♪……!! ♪♪♪♪………!!》
【サビでこぶし入れるの好き】
【歌詞の爽快感いいよね】
【いや別れの歌なんですがそれは。。。】
【ラブソング()】
【『また逢う日まで』:昭和歌謡界の帝王、故・尾崎紀世彦氏の代表曲。50年前の曲だが割と最近までTVで歌っている姿を見れたので世代じゃなくても知っている大人は多い。】
【解説ニキあざすw】
【ないと本当にどんな曲か分からない笑】
【想い人との別れを爽やかに歌った曲よ】
【お婆さんはキーヨファンだったんだよな】
【そのアダ名つかう人まじで希少……】
【絶滅危惧種】
♪……パッパッパ・パ〜!
♪……パッパッパ・パァ〜〜〜〜〜!!!
壮大なコーラスと共に曲が終わった。
《……す、スゴイですね》
《ふぅ〜♪ やはりこの曲は神曲ですわ!》
【神曲ww】
【感性が斬新すぎる笑】
【言葉選びのセンスよ】
【この時代の曲にその表現は草】
《名曲に古いも新しいもありませんわ!! 良いモノは良いのです!!》
【おっ名言】
【時代に阿らない考え方すこ】
【お嬢様って何気にカッコよくね?】
【カノンちゃんは可愛い。】
……ん? 何か見覚えのある台詞が……。
【なんかどっちもお婆さんやな】
【シニア対決】
【老人ホームの訪問ライブみたい】
《私まで!? 今回はカノン先輩がお婆さんなだけでしょ!!!》
《まあ、私がですの? 私などお婆さまには遠く及びませんが、光栄な気分ですわね》
【やっぱりかっこいい】
【大人の余裕】
【格の違いね】
【それに比べてこっちの婆さんは……】
【器の小さい婆さんだな】
《くぅううう……っ!!! 何か悔しい!》
【こっちの婆さん時代に阿るよね】
【時流に乗る生き方】
【波乗り婆さん】
《何よアンタたち! そんなに言うなら私だってやってやるわよ! ママから教わった十八番を見せてやるわ!》
【おお何だ何だ?】
【今度はホノカも歌謡曲か?】
♪〜ジャン!ジャン!ジャン!ジャン!
<< 曲名:『恋をとめないで』(1989)>>
【ロックww】
【80年代の趣】
【勢いあるわぁ】
【バブルの面影よな】
【『恋をとめないで』:"COMPLEX"の1stアルバム『COMPLEX』の収録曲。ライブの定番だった。リリース四月なのでギリ平成。】
【吉川晃司と布袋寅泰のユニットやん】
【布袋寅泰は元BOOWYのギタリストな。】
【いや謎w】
【何故これを選んだ?】
【勢いだろ】
【お母さん世代バレ笑】
《♪〜♪〜♪〜♪〜……!!!!》
【クセのある歌い方すきww】
【原曲へのリスペクトを感じる】
【これから彼女連れて夜のデート行く曲】
【今あんま聞かないよね】
【ちょっと強引な感じの歌詞】
【まあ時代よな】
《それはそれで素敵ですわ! 情熱的な恋愛なんて憧れますわ〜!》
【いやダメ。】
【お前は許さん】
【嫁いるんだから自重しろ】
【公然と浮気発言】
【マリモたん可哀想】
《な!? また私とマリモの話ですの!? 一体私達にどうなって欲しいんですの!?》
【結婚して欲しい】
【幸せな家庭を築いて欲しい】
【そしてベイビーを授かって欲しい】
【家臣たちヤバすぎん?ww】
【いろいろと超越してる】
《ベイビーって、どうやって……?》
神秘的な疑問に先輩がとらわれかけた所で曲が終わった。
《ハァ……ハァ……どうよ! これで時代に阿ってるなんて言わせないわよ!》
【あれそれ何の話だっけ?】
【てぇてぇ話してるから今どうでもいいよ】
《何それ!? 私、歌い損!?》
《やっぱり上手ですわね……私も次の出方を考えないと。ここはやはりお婆様から教わった、あの曲を歌うべきでしょうか?》
《先輩って、本当にお婆様が大好きだったんですね》
《ええ。両親に代わって、ありのままの私を見てくれた唯一の人でした》
【"両親に代わって"?】
【闇を垣間見せんのやめろ】
《へぇ。ありのままの自分を見てくれる人か……今は居ないんですか?》
《今はあの子、くらいでしょうか》
【あの子ね】
【あの子だよなぁ】
【あの子しかいない】
【カノンちゃん可愛い】
【けど最近あんまり絡みなくね?】
《さ、最近は双方忙しい身ですので……》
【おい許さんぞ】
【もっと絡めよ】
【おじさんたちの心の糧になれ】
【※それはイヤです。】
《ふーむ……》
ホノカは何か考え込むように唸り始めた。視聴者とのやり取りを見て何か思う節があったのだろうか。
《カノン先輩》
《何ですの?》
《先輩は日頃、大切な人に想いを伝えることってありますか?》
《想い、ですの?》
《はい。そう言うのって口に出さないと案外伝わらないものだって言うじゃないですか》
《確かに……そう言われると伝えることってあまり無いかも知れません》
【ダメやん】
【今伝えろ】
【別にムリしなくてもいいのに……】
《いいえ。ホノカさんの言うことはもっともですわ。ここはビシッと伝えて見せます!》
気合を入れると同時にイントロが始まる。
先輩の選んだ曲は……?
♪タッタラッタ〜……
<< 曲名 :『君は薔薇より美しい』(1979)>>
【おぉ〜!】
【いいね】
【今の状況に合ってる】
【いや分からんw】
【誰か解説クレメンス……】
【『君は薔薇より美しい』:布施明の代表曲の一つ。久しぶりに会った女性の美しい変貌ぶりと自分の感情を歌った曲。】
【それ見て自分も……というね】
【影響受けて変わるのいいね】
【ちょっとヤキモキする歌詞なんだな】
【何で変わったんだろう、ってなる】
【勝手に想像して嫉妬するんだよなw】
【でも分かっちゃうんだよなぁ】
カノン先輩……。
先輩も否応なく気づいてしまうんだろう。
誰より身近な人の変化を目の当たりにし、それが自分のためではないと悟ったときの、言葉に出来ないやる瀬なさ。
けれどそれを潔く認め、自分も変わろうとする先輩の覚悟は、端から見ていて勇気づけられるものがある。
【何か切ないな】
【二人とも末長く仲良くして】
【そんな風に思ってくれて私、幸せだよ……ありがとう、カノンちゃん。】
【↑なんか一人で感動してる人が】
【コアなファンかな?】
<< 対戦結果:羽咲ホノカWIN!!>>
《くぅ〜負けてしまいましたの!》
【さぁ罰ゲームは?】
【禊のお時間ですねぇ!】
【胸が高鳴りを抑えられない】
【ハァ……ハァ……(期待大)】
《勝負は勝負。いかなる罰をも受ける所在ですの。さぁ……ホノカさん……宣告を!》
《いや、辱めって決まってないからね?》
俺の時と対応が違いませんか。
ともあれ、ホノカの宣告やいかに?
《今回の私からの罰ゲームは、先輩が大切な人に想いを言葉で伝えることです》
《言葉で……?》
《はい。やっぱり言葉にしなきゃ伝わらないこともあると思うから》
《あ、改めて伝えようと思うと恥ずかしいですの……》
《ある意味、罰ゲームかな?》
カノン先輩が想いを伝えるのか。
一体どんな言葉で伝えるのかな?




