まずは見た目から
吉田さんに勇気づけられたことで、俺の中に巣食っていた瑠美の件のモヤモヤが一度すとんと落ち着いた。
思えば今まで当たり前のように近くにいた存在が、ある日突然遠くへ行ってしまったような気がして無意識に焦っていたのかも知れない。
自分が大人になったとは思えない。今も昔と変わらずバカでガキだと思う。
けれど、こんな自分でも背中を押してくれる人がいる。それを知ったからには少しでもその期待に応えたい。
最近ふと、そう思った。
「とまあ……そういうことなんだよ」
【どういう事だよ】
【誰か翻訳プリーズ】
【訳 : なんとなく自分に酔った】
【あーそれだわ】
【大正解】
ちょっと、勝手に変な訳つけないで?
「違うんだよ、私は変わりたいんだよ。殻を脱ぎ捨てて、新しい自分ってヤツにさ」
【ほう】
【どのように?】
「はい、よくぞ聞いてくれました。ということで今回のテーマはこれです!!」
<< 新衣装お披露目会!>>
【はぁ?】
【まず見た目からってことか】
【思考浅……】
【薄っ】
「静粛に。これだって立派な進歩です」
もし瑠美ちゃんが恋人の元へ去っても自立して生きていけるよう、今まで散々ダサいと罵倒されてきたファッションセンスを磨こうと思う。
吉田さんの信頼にも足るような立派な"大人のレディ"になることが最終的な目標だ。
「今回はとっておきの秘密兵器があるよ!」
背景に表示されたのは巨大なクローゼットのような形をしたアイコン。扉が開くと中には沢山の洋服が詰まっているのが目に入る。
「会社の人達が頑張って作ったアバター専用のクローゼットだよ! 中の服を選んで選択すると、なんとその場で好きな格好に着替えられるんだ!」
【こんなんできるんだ】
【普通にすごくね?】
【最新の技術は進んでるな……】
これもまだ試験段階だが、実用化されれば誰でも自由に使えるようになるそうである。早速使って試してみよう。
「これから好きなコーディネートを選んでコメントで伝えてね。そうしたら私の格好が早変わりするよ!」
【よしきた!】
【久々の投票回】
【腕が鳴りますなぁ〜!】
前回の投票から時間が空いたということで皆張り切って投票してくれている。この中から特に多かったコーディネートを選んで着替えよう。
「まず最初の組み合わせはこちら!」
<< コーデ① : プ◯キュアの変身衣装・魔法のステッキ・変身アイテムの手鏡・肩に乗せる用の妖精 >>
て、ちょっとぉ……!!
止める間もなくアバターが光に包まれ、瞬く間に衣装がフォームチェンジする。
【おーこんな感じか】
【衣替えのエフェクトいいね】
【流石に手が込んでるわ】
「流石にじゃないよ、もう!!」
そう言って怒る俺のアバターはお馴染みのコスプレに身を包み、何やら魔法少女めいた攻撃用の杖と変身用の手鏡を両手に携え、肩にはデフォルメ化されたファンシーな"妖精"を乗っけている。
【怒っても可愛いw】
【むしろギャップで可愛さ5割増しよ】
【なんか親戚の子を思い出して草】
これじゃ、いつも通りじゃん!? ともあれ仕様は分かったので早く次に行こう。
「もう……気を取り直して次はこれ!」
<< コーデ②:ピンクのマフラー・白セーター・デニムの短パン・黒タイツ >>
光の中から現れたのは、今時のファッションに身を包んだ俺のアバターだった。
【おぉ、それっぽい】
【街でちょくちょく見かけるパターン】
【短パンよく寒くないよね……】
【マジそれ】
【この格好の奴らは寒さを感じないの?】
【いやあれは寒くても美しい私の脚を見ろというメッセージや】
【強者で草】
「どう、似合うかな?」
【お……おう】
【似合っとるで】
【今時感もバッチリ】
「えへへ……良かった」
【!?!?】
【なんか浄化されてる】
【キレイなジャ◯アン定期】
誰が強制リサイタルだ。




