共同戦線
瑠美のことが判明してすぐに、俺はカノン先輩に電話をかけた。
「かのんしぇんぱぁい……!」
《な、なんです!? 何事ですの!?》
似たような事情でヤキモキしている先輩なら共感してくれるのではないかと思い、俺は今の状況と心情を吐露した。
《瑠美さんに恋人? 確かにうちは恋愛禁止ですが、建前ですしバレなければいいのでは。もう妹さんも小さくないのですし、自由にさせてやったら良いではないですか?》
「きぃいいいい!!! イヤなのぉっ!! 瑠美ちゃんがどこの馬の骨とも分からない男とあんな事やこんな事を……あぁ考えただけでまた怒りが!!」
《まったく。わがままですわね》
「あんたが言うか!」
マリ先輩の件で同じようなこと言ってたくせに。
《ま、まあ私に出来ることはないですから私はこれで……》
「待ってください」
《……何ですの?》
「共同戦線と行きましょう。俺がマリ先輩の動向を探り、先輩も瑠美の動向を探る。お互いの情報を共有するんです」
《なるほど。確かに役に立ちますわね》
交渉成立。まずは先輩が知っている瑠美の情報を聞き出そう。
「先輩は瑠美の恋人に心当たりはありますか?」
《そうですね、まず思いつくのは同期の鳴島海斗ですわね》
《鳴島……?》
聞き慣れない名前だが、同期にそんな奴が居た気もする。歳も近いし、誰かと付き合っているとすれば一番可能性が高い気がする。
《マリの件について貴方が知っていることはありますの?》
「ああ。おそらくだけどマリ先輩の想い人は吉田さんだよ。以前にそんなような事を言っていたから」
《くっ……やはりそうでしたか》
俺はマリ先輩にすまないと思いつつ、先輩のことを喋った。
それから俺たちは互いにそれぞれの懸念事項について調査を開始した。
◇◇◇
鳴島海斗は最近出てきた男性Vで女性人気が高いという新しいタイプのvtuberだ。
実際会ったことはないが、若者らしい爽やかな声と青年っぽいアバターの外見がマッチし大きな人気を誇っているのを知っている。
奴に彼女がいるという情報は定かではないが、ネットで調べるとそれらしき情報が何件かヒットする。配信中の本人の言及が主だがまずそれらについて確かめてみよう。
now loading……
【カイト、彼女持ち発言!?】
いかにもなタイトルが画面に表示された。都合良くまとめられているようだし、これを見れば全部の疑惑を網羅できそう。
《それじゃ次の質問です、こちら!》
こいつがカイトか。第一印象は何というか「普通」だが、口調の端々に器用さを感じる。発言だったり進行だったりテンポが良く聞きやすい。こういう卒なくこなすタイプは下手なイケメンよりもモテるって経験則から知っている。
<< こんにちは! この間、私の友達に彼氏ができたんです。カイトくんも恋したいって思うことはありますか? もしかして既に誰か気になっている子が居たりするのでしょうか? >>
大分つっこんだ質問だが、よくこれを選んだものだ。それだけ多い質問なのだろうか。
《今回こういう質問が多かったね。やっぱりみんな春だからかな? 季節感あったか? さてそんなこんなで恋ですよ……恋》
【溜めるな笑】
【こいつ彼女いそう】
【事務所は恋愛禁止】
【でも破って作りそうw】
《そんなんいないよー。事務所の規約結構キビシイからね。同期の子達も本当にいないんじゃないかな》
【またまた】
【しらを切りおって】
イラァ……。
このキャピキャピした空気どうにかなんねえかな。何か違う理由でイラついてきたぞ。瑠美の件とは別件だけど全員まとめてぶっ飛ばしてえ。
【同期の子とは仲良くないの?】
【羽咲ホノカとか】
《ホノカ? たまに話すくらいかな》
【後輩とかは?】
【夜来ユウ……笑】
【それはやばすぎww】
んだとこら。
《夜来ユウちゃん……は絡んだことないな。いつかコラボとかする機会あれば話せるかもね。まぁ、あればだけど》
【お嬢様とはどう】
【マリモちゃんは〜?】
【夜来ルルミ】
《お嬢様もマリモちゃんもないから! ルルミはまぁ……てなわけで次行こ……!》
切り抜きはここで終わっている。
これだと確かに瑠美との関係については言及を控えたに見えなくもない……のか?
他のカットについても似たように曖昧な疑惑しか見受けられず、これといった確証は得られない。
ネットで調べてもカイトの彼女については様々な憶測がされているに留まっている。
イマイチ決め手にかけるが、取り敢えず彼を当たってみるしかないか。
そう思い手に取ったところで、スマホがブルッと振動する。誰かからの着信だ。
「もしもし?」
《ふぇええん! ユウちゃぁん!》
マリ先輩だった。
珍しく取り乱した様子に狼狽える。
「どうしたんです、急に?」
《アピールが全然きかないよう!!》
……知らんがな。
けれど共同戦線を張っている身としては、何とか上手い方に誘導せざるを得ない。
カノン先輩を助けてあげるチャンスだ。
「先輩、最近気を張りすぎていませんか? カノン先輩も心配してましたよ」
《え、カノンちゃんが……?》
「アピールは想い人の前だけでないと疲れてしまいます。普段は平常心を保ちつつ、ターゲットが来たらとことんアタックあるのみ。狙いを定めて行うのがコツです!」
《なるほど!! ありがとうユウちゃん、私これからもっと頑張るね!》
「ファイト〜!」
あれ?
なんか応援したみたいになってしまった。
適当に気を抜けって意味なんだけどな。
カノン先輩ごめんなさい。
対応、ミスったかも知れません。
◇◇◇
その夜、カノン先輩から電話があった。
《聞いて下さいユウ! 一大事ですわっ!》
「な、何があったんですか……?」
よもや先程の件で既に悪影響が??
若干焦って尋ねる。
《さっきお風呂あがりにマリから新しい下着の感想を聞かれましたの! 『似合う?』とか『可愛い?』とか『もっとよく見て?』とか、やたら念入りな様子でしたのよ!?》
「なっ!?」
まさか、もうそんな段階に?
よもや俺のミスリードのせいなのか。
「大人の階段、登るのかな?」
《やはりパイですの? あの2つの核弾頭がいけないんですの? ビキニでビキニ環礁に突撃する日も近いんですの……!?》
万事休す。
先輩のおっぱい爆弾が投下される日は本当に近いのだろうか……。




