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燃やせ、恋の炎!

 カノン先輩が唸って考えだしてから早数分が経過した。


《なかなか思いつきませんわね……》


 まずいな、これだと取れ高がない。

 先輩達は知らないが実はこの映像は全世界に配信されているのだ。


「あー、誰かアドバイスとかない? 過去に告白したことある人とか」


《ちょ、ちょっとアンタ……!》


《まさか知らないんですの!?》


「え?」


《そっかぁ。知らなかったんだ》


 呆けた表情を浮かべた俺にマリ先輩が説明してくれる。


《うちの事務所、恋愛禁止だよ》


「えっ? そうなの?」


 古風だからって訳でもないんだろう。近頃は人間関係のトラブルが簡単に表沙汰になるし、それで企業の名前に傷がつくこともあり得る。そういったリスクを回避するための措置の一つが"恋愛禁止"なんだろう。


 意外とお堅い所もあるとは知らなかった。


《じゃあカノンちゃん、私を好きな人だと思っていいよ。私を好きな人に見立てて、どんな風に伝えるか言ってみて!》


《わ、分かりました。やってみますわ》


 マリ先輩の提案でカノン先輩とマリ先輩が互いに向かい合う。


<< ネットが凄いことになってるぞ >>


 瑠美からのメールが来た。何とか盛り下がるのだけは避けられたようで安堵する。


《……っふふ……》


《カノンちゃん!?》


《ご、ごめんなさい。何だか改まって見つめ合うと笑えてきますの》


《うわ……先輩かわいそう》


《もぉ〜! 真剣にやってよぉ!》


<< ネットが凄いことになってるぞ…… >>


 げぇ、絶対悪い意味だこれ。

 流石は炎上系お嬢様。


《そう言う時は、大切な相手のことを考えるといいわよ》


《へぇ〜、流石ママ》


《ママも昔はパパのことを思い浮かべていたわ。それも今となっては……ふふ》


《ま、ママぁ……もう許してぇ!!》


《なるほど、忠告感謝いたしますわ。相手のことを思い浮かべる……私の大切な人……》


《……もちろん架空の相手だよね?》


《と、と、と、当然ですわ!?》


 アカン……!

 ってまったく、危なっかしいなぁ。一歩間違えれば取り返しのつかない炎上案件になっていた。何せ自分の好きなvtuberが知らない男に惚れているなんて知ったらファンも興醒めだろうからな。


《……決まりました》


《カノンちゃん、もういいの?》


《ええ、心構えができましたの。これでいつ想い人が現れても大丈夫ですわ!》


《そっかぁ、良かったねぇ》


 張り切るカノン先輩に対し、マリ先輩はどこか寂しそうな声を漏らす。長年連れ立ってきた友人が想い人に取られるのを想像するのって、どんな心地なんだろう。


 なんて考えているうちに、カノン先輩はマリ先輩の方を見て真剣な表情を浮かべた。どうしよう。本当に名前言っちゃうの?


《私の大切な人は……》


































《あなたですわ、マリモ》


《……え?》


 マリ先輩が呆けたような顔をする。

 どういうつもりかと俺も驚いた。


《カノンちゃん……?》


《あなただと言ったのですわ。確かに恋に憧れる気持ちもありますが、今の私にとって一番大切な人はあなたです。この企画だって、あなたがユウのことを教えてくれたから実現することが出来たのですわ》


 そうだったのか。

 先輩が俺に興味を持つようには思えなかっただけに最初は内心疑問に思っていたけど、マリ先輩にも相談していたのか。


《月並みですが、このチョコはあなたに贈りたいですの。殆ど全部あなたが作ったようなものですし、全然格好がつかないのですが、受け取って下さるかしら?》


《ううん、そんな風に言ってくれて嬉しい。私、"果報者"だね。……カノンちゃんも一緒に食べよう!》


 マリ先輩はようやく明るい声をだした。

 カノン先輩も嬉しそう。


《私もいいんですの? それならありがたくいただきますわ!》


 あれ……これ勝負は……?


「投票では一応、バカの勝ちになってるぞ」

「じゃ、じゃあ俺の勝ち……?」


《カノンちゃん、美味しい?》

《はいですの!》

《良かったぁ〜!》


《先輩たち……楽しそうだね……》






<Vのバレンタイン企画について語るスレ>

……

……

567:てぇてぇ……泣

568:浄化されそう

569:カノンちゃん可愛いンゴ

570:どっちもやろ

571:結局、勝敗はどうなったの?

572:いやもうどうでもよくね?

573:それ。

……

……





「いや私、勝ったんですけど!? 勝者なんですけど!?」


「あーもう、うっせえ。今回の主役はどう見てもあの二人だよ」


《そうよそうよ! ズルした罰だわ!》


「何だとぉ!? きぃいいいい!!!!!」


「うわ、ホノカみたいになってる……」


《一緒にすんな〜!?》



<Vのバレンタイン企画について語るスレ>

……

……

320:これ何スレ目?

321:尊さのあまり忘れた

322:今年は良いバレンタインだなぁ

323:例年はクソだがな。

324:今年はリア充もチョコないから許せる

325:むしろ俺らが勝ち組なんじゃ……?

……

……




《あ、ところでマリモ》


《なぁに、カノンちゃん?》


《ずっと気になっていたんですが、何故みんな手作りにこだわりますの? 市販のものを買って渡せば、特に問題はないのでは?》


《そういえば、そうだねぇ?》


《やっぱり。モテる殿方は普通に今年も沢山チョコを貰っているのではありませんの》


《あー、吉田さんもそう言ってたかも》


《ホントですの!? 流石は吉田さん!! イケメンはやっぱり違いますわね!!!》



<Vのバレンタイン企画について語るスレ>

……

……

456:あっ

457:そうやんけ……

458:何故手作りだと錯覚していた……?

459:実際貰ったことないからや

460:現実を知らない非リア

461:俺もついさっき貰ったわw

462:は?? 56していい???

463:吉田って誰や。

464:彼氏か好きな男か……

465:あーこれは終わったな

466:お嬢様R.I.P.

467:許さん!!!!

468:吉田ぁぁあああああ!!!!

469:ガチ恋勢おったんか……

470:マリモたん愛してるぅううう!!!!

……

……




「!?!?」


「……きぃいいいいいい!! ……ってどうした瑠美?」


「や、やべぇ! ネットが今までにないくらいに炎上しまくってんぞ!?!?」


《な、何事ぉ!?》


 とその時、コメント欄が復旧した。


《な、何です? コメントがいきなり…?》


【やっと繋がったわ】

【覚悟はいいか】

【余韻ぶち壊しどうしてくれる?】

【非リア達の恨みを知れ】


《な、何なんですの!? そんなのモテない人が悪いんじゃありませんの!!!!!》


 あっ。


【みんな……燃やせぇええええ!!!!】

【SNSで呟けェエエエ!!!!】

【おっ、早速トレンド入りw】

【"二条院カノン 彼氏持ち"で草】


 なっ! やべえ!

 スマホの振動がひっきりなしだ!


《えー!? カノンちゃんまた〜!?》


「て……何か俺まで炎上してない!?!?」


「どうやらさっきの告白が、サイト運営からセンシティブ認定されちまったっぽいな」


「のぉおおおおおおおおんんん!?!?」


《あら、私達もトレンド入りしてるわ。"ホノカ父 浮気"ですって! 有名人ね、パパ♪》


《ママ……親子丼……許し……て……》


《きゃぁあああ!! パパしっかりぃいいい!?》


 こうして俺たちのコラボは崩壊し、ありとあらゆる者たちを巻き込んだ炎上の大火は、SNSというネットの海の暗がりを夜明けまで絶え間なく照らし続けた。


 そしてカノン先輩の炎上イメージは、結局全然改善できなかったのでした。まる。






《もう嫌ですわぁああああああ!!!!》





「……あ、チョコクッキーうま♡」

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[一言] ボヤですめばいいけど
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