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 週明け、やっとEdgeでの仕事が始まる日。


 オフィスに出社すると、早速似た匂いのする人が近寄ってきた。ボーダーのシャツに一ヶ月くらいは剃っていなさそうなひげ。同族だとすぐにわかる。


「こんにちは。有照君?」


 佐竹です、と言いそうになって思い出した。社内的には有照という名前で登録してもらっていたのだった。


「はい。そうです」


佐野さのです。開発チームのリーダーをやってます」


 差し出された名刺には『システム課課長』と書かれている。若風だが前の会社もこのくらいの人が上にいたので組織が若い証拠なのだろう。


「よろしくお願いします」


「うん、よろしく。支給パソコンの準備はできてるから、確認しながらこれからの話をしようか」


「はい。分かりました」


 佐野さんの先導で入った会議室に向かっていると、分厚い資料を抱えた雫花が社長室に入っていくのが見えた。何やら安東さんと会議をするらしい。


 そんな姿を横目に会議室に入ると、既に真新しいノートパソコンが充電ケーブルと接続されていた。誰が準備してくれたのか知らないが、前のところは納品された箱だけが机に置かれていたので至れり尽くせりだと感じてしまう。


 椅子に座ると、佐野は早速画面の投影を始めた。


「エディタとかは派閥があるからお好きにどうぞ」


「あ……はい」


「それで、これからお願いしたいタスクなんだけど、VTuberの切り抜き動画って分かるかな?」


「あぁ……はい。有志が配信のダイジェスト版を編集しているものですよね。収益を折半するとかでやってくれる人を集めたり」


「おぉ! 詳しいんだねぇ」


 気づけば最北南と氷山イッカクの配信アーカイブを見ているし、リコメンドされた切り抜き動画も見るようになっている。


「うちは有志だけじゃなくて会社の中に切り抜きを作るチームがいるんだけど、結構な人手がかかるんだ。配信を確認して見どころのアタリをつけて、動画を切り貼りして、テロップつけてってやって、それを所属タレント100人分。アルバイトを雇ってなんとか回してるけど、品質はバラけるし社員の最終チェックもあるしこれじゃ回らないよねっていうのが現状の課題感。土日も配信はやってるから、尚更ね。今は一日数本しか作れてないんだ」


「なるほど……システム課でこの話をするってことは何かしらの部分を自動化したいとか、そういうことですか?」


「そういうこと。で、一応自動化するツールは作ってみたんだ。配信の動画データとコメント履歴をダウンロード、配信の盛り上がった箇所を特定して切り抜き。音声認識でテロップを自動でつけるってものなんだけど……めちゃくちゃ遅いんだよね」


 そう言って佐野さんは実際に開発したであろうツールのデモを見せてくれる。


 デモで使っているのは氷山イッカクの配信。こういうところで真っ先に出てくるあたり、彼女の人気は確かなようだ。


 デモで使っているのはたった5分の動画。それでも処理が終わるまでに10分かかった。出来上がったのは30秒の切り抜き動画。


「こんな感じ。元動画の尺の倍くらいかかるんだよね。普通の雑談配信だと数時間は余裕でいくから、一日ぶん回して4本くらいしか作れないんだ。しかもそこから人手で微調整。むしろ効率悪いのが現状ってわけ」


「並列で動かす前にチューニングしたいですね……」


「そういうこと! なので有照君にお願いしたいのはこの切り抜き動画作成システムの高速化。どうかな? 質問ある?」


「んー……とりあえず中身を見てみます。資料見るより早いので」


「おぉ……玄人って感じするねぇ」


「いや……そんなことないですよ」


 フューチャーメイキングなんたらでは一つも資料が残っていなかったのでプログラムコードを解読して理解する生活だった。その癖が染み付いてしまっている。


 今回も作りかけのツールなら綺麗な資料もないだろうし、同じことをするのが早そうだ。


 パソコンの設定はほとんど終わっていたので、会社に来て一時間もすると作業に入ることができた。


 ◆


「どうかな? いけそう?」


 夕方、俺の机に佐野さんが寄ってくる。


「いけちゃいました……」


「え?」


「百倍くらい早くなりましたよ」


「えぇ!? いやいや! マジ!?」


 佐野さんは驚いた表情で画面を覗き込んでくる。


「なんかですね……計測して時間かかってる処理を見たら、動画を毎回全部読み込んだり、データを何回もダウンロードしてたり……あちこちに非効率な処理が入ってたのでそこを潰していったらこんな感じになりました……パラメータも全部デフォルトだったのでいい感じにチューニングしてます……」


 なんと伝えたものかと迷う。これを誰が作ったのかは分からないが、試作品レベルだったから忙しい業務の隙間でやっていたのだろうしエイヤで作った結果非効率な処理になっていたはず。


 だから元が悪いとは責められないが、それにしてもあまりにお粗末な作りだった。


「いやぁ……ちょ……あ、ありがと。君、凄いんだねぇ……」


「こっ、これはほんと、大したことないやつですから」


「そう言われるとベースを作った僕の立場なくなっちゃうよぉ……」


 しまった。佐野さんが現行版を作っていたらしい。


「課長だしお忙しいですもんね……」


「そのフォロー、泣けてくるなぁ……ひとまずキリのいいところで成果としてまとめくれる?」


「はい、送っておきま……した」


 時間があったのでそれも既に済。その場で佐野さん宛に資料を送信すると苦笑いしながら自分のデスクに戻っていく。


 休憩がてらトイレに行って戻ってくると、俺の席に安東さんが座っていた。


「お疲れ様、有照君」


「どうも」


「少し時間ある? 話があるの」


 そう言って安東さんが指差すのはスケスケ社長室。ソファには眉間にシワを寄せた雫花も座っている。


「大丈夫ですよ」


 俺の返事を聞くと、安東さんは笑顔で頷いて椅子から立ち上がる。


 そのまま社長室に移動がてら雑談。


「いきなりやってくれたみたいね」


 安東さんは笑いながら肘で俺をつついてくる。


「何がですか?」


「切り抜きシステム、超高速になったって。佐野君、涙目になってたわよ」


「いえ……佐野さん、他の仕事が忙しいからちゃんと見れてないだけだと思いますよ。誰でもあのくらい……」


「それはマネジメント不足だから、とどのつまり私の責任ね。ま、ここで起こることの責任は全部私に帰結するわけだけど」


「あっ……そ、そういうつもりじゃ……」


「過度な謙遜は不要よ。私の手が回ってないのも事実だから。佐野君の補佐の社員をつけないとね。ありがと。でも君はまだまだ余裕ありそうだからもう一つ仕事を頼みたいの」


 話をしているとオフィスの端にある社長室に到着。


 安東さんが扉を開けると雫花が立ち上がりこっちを見てくる。


「雫花。さっきの話、パートナーを連れてきたわよ」


「パートナー……佐竹?」


「そ。スーパーエンジニア。あ、そうそう。彼ね、有照君だから。佐竹君じゃないの」


「はぁ? なにそれ」


「雫花じゃなくてイッカクっていうのと同じよ」


「え? 佐竹もVやるの?」


「あら、やってみる? 有照君」


 二人のトントン拍子の会話についていけずどもってしまう。


「えぇと……とりあえず頭から説明してもらえます?」


「あら、そうね。ごめんなさい。VTuberやってみる? っていうのは冗談よ。ま、本当にやりたくなったらいつでも相談して。で、本題ね。最北南っているでしょ? 彼女、このままだと契約解除……クビかもしれないの。そのテコ入れを手伝って欲しくて」


 安東さんは悲痛な面持ちでそう告げた。


 え? 疋田さん、クビになっちゃうの?

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