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 有名起業家、安東成海から直々のスカウト。さすがにこんな展開は想定しておらず手が震えてくる。


「なっ……何をするんですか?」


「配信周りをサポートするツール開発だったり、後は……バーチャルの世界を設計するところね。メタバースとか言うじゃない? 足元のやることが多すぎて、そういう新しい取り組みまで手が回ってないのよ」


「大変そうですね……」


「ま、それなりにね。優秀な人を十人集めたら私の睡眠時間が一時間伸びるってモチベーションで人を集めてるの。給料、弾むわよぉ? 作れるのはアプリのフロントだけ? インフラも出来る?」


「まぁ……サーバーとかはあまり詳しくないですけど。インターンでやってた時は一つのサービスをまるっと担当していたので、一通りは」


 安東さんは満足げに微笑む。


「いいじゃなーい。これまではどこかでインターンをしていたの?」


「フューチャーメイキングカンパニーってところでアプリを作ってました」


「あら、南部さんのところ?」


「ご存知なんですか?」


「社外取締役だもの、私」


「えぇ!? そうなんですか?」


「そうよ。中の人みたいだから話すけれど大変みたいよ、最近」


「そうなんですね……」


「えらく他人事ね」


「まぁ……急に追い出されたんで」


「あらあら……最近、怪しいコンサルが出入りしてるのよねぇ。なんでもコストカットカットカット。何も残んないわよ、あれじゃ」


「僕なんて学生なんで安いほうだと思いますけどね」


「学生には実績を積ませるって名目でタダ働きさせたらいいんじゃない? って言ってたわよ。コストカットコンサルさん」


「なっ……無茶苦茶ですね……」


 あの日、南部さんが執拗に俺を責め立ててきたのはそういう背景もあったのだろう。あれで縋りついてくれば条件を悪くして「仕方なく雇ってやる」みたいな方向に行こうとしていたのかもしれない。そんなのに騙される人がいるのかも分からないが。


「ま、彼は10億円稼ぐのが丁度いい人なのよ。身の丈にあっていない規模になっちゃったから大変ね」


 結構な物言いだ。社長なのだからこのくらい気が強くないといけないのかもしれないが。


「身の丈……ですか。安東さんはどうなんですか?」


 安東さんはニッコリと笑い、顔を前に近づけてくる。


「一千兆円」


「それもうアップル超えてますけど……」


「そのくらいの気概ってことよ」


 見た目はクールビューティーだが中身はアツい人のようだ。苦笑いすると「5億円のくせに」と腕を伸ばして俺の頬を突いてくる。


「ま……南部さんはあれじゃダメね。私が言っても聞かない――あら、噂をすればね」


 安東さんの話の腰を折ったのは携帯の通知。それを俺に見せてくる。


『フューチャーメイキングカンパニーの全サービスで障害発生』


 少し時間を開けてニュースアプリから同じタイトルのプッシュ通知が俺の携帯にも飛んできた。


 あの会社はスマホゲームだけに留まらず電子決済や小売店のポイントアプリなんかも手掛けている。それらが全てダウンしたのであれば社会的な影響は大きそうだ。


「大変そうですね……」


「あらあら。他人事なのね」


 安東さんはそう言いながら自分も他人事のように飲み物のメニューを眺めている。社外取締役なのだから少なくとも今の俺よりは関係があるはずだが。


「まぁ……もう関係者じゃないので」


「元関係者的にはどこが怪しいのか分かる?」


 原因の推定はすぐに出来る。だが、ここで言っていいものかと悩んで口を閉ざしていると「ここ、外には音は漏れないわよ。オフレコ」と安東さんが笑う。


「うーん……全サービス障害なので共通している部分ですかね。共通の処理だとログイン周りですかね。他の人から引き継いで僕が担当してたんですけどバグが多すぎて刷新しようって話になってて。ま、それもクビになったので放置されてるんでしょうけど」


「あらあら。南部さんは惜しい人を手放したみたいね」


「僕なんて別に――」


 そう言いかけたところで、安東さんの真剣な眼差しに気づく。大人の女性と目を合わせるのは緊張する。妖艶な雰囲気ではなく、真面目な職人のような顔つきだ。


「佐竹君。明日、オフィスで待ってるわ。もし大学が忙しければ来週ね。契約周りはそこで済ませましょう。印鑑、持ってきてね」


 まだ話を受けるなんて言ってない、なんて言う気もなくなるくらい、安東さんの目は真剣そのもの。


 社長直々のラブコール。断る理由もないし、明日は顔を出してみてもいいかもしれない。


 問題は疋田さんだ。確定ではないにしても、最北南の中の人である確度は高い。万が一、オフィスに顔を出したタイミングがかち合うと面倒なことになる。


 疋田さんは俺が上階に住む話しやすい陰キャオタクだと思っているし、今後もそうでないと気軽に話が出来なくなる。インターンとはいえ、事務所の関係者になると腹を割って話せないだろう。


「あの……オフィスってタレントの人って来たりしますか?」


「なになに? 中の人に会いたかったりするの? 残念だけどそこはリモートでのやり取りがメインなの。ま、例外はあるけど、気軽に会えるとは思わないでね」


 ガードはしっかりしているらしい。これなら安心だ。俺の正体が疋田さんにバレることはまずない。佐竹なんて名前の人は世の中にはごまんといるのだから、関係者として直接会わなければ何の問題もないはずだ。


「むしろ逆なので……大丈夫です。明日お伺いしますね。お願いします」


 安東さんは「逆……?」と頭を傾げたが、俺の懸念は払拭された。


 肉を突きながら雑談をして会食は終了。日付を跨ぐ前に解散となった。

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