63、勘です。勘かよ?!
「ユウくん、洞窟に行きたいの」
私が変身を解いて開口一番に告げたのがこの言葉だったからか、三人はポカンと口を開けていた。いけない、いけない。色々な報告をすっ飛ばしてしまったわね。
私は左側に逸れて歩いているから、右寄りに歩いた方がいいという話と、もう少し先に洞窟があり、人らしき魔力の揺らぎを感じたという話をした。
ユウくんは私の話を聞いて、大きく息を吐いた。
「いきなり洞窟に行きたいって言うから驚いたじゃないか……まあ、俺はクリスの言う洞窟に行ってもいいと思うのだが、二人はどう思う?」
「行くべきだと思います」
「念の為に足を運ぶべきかと」
二人の了承も取れた私たちは、進行方向を変えずに真っ直ぐに進む。すると一時間ほどでお目当ての洞窟へと辿り着いた。
再度私は洞窟の内部の魔力を感じ取る。
「どうやら、魔物が住み着いているわけではなさそうね」
「お嬢様の仰る通りですね。この洞窟は問題ないでしょう」
「マチルダさん、どうして分かるのですか?」
不思議そうな表情で訊ねるコニーくんに、マチルダちゃんは真面目な顔で言い切った。
「勘です」
「勘かよ?!」
「勇者様、私の勘は当たるんですよ」
自慢げに話すマチルダちゃんに、ユウくんは肩をすぼめる。そんな三人へ私は言葉を紡いだ。
「洞窟自体は一本道になっていると思う。奥の方からうっすら……魔力が漂っているの」
その言葉にコニーくんの表情が青ざめる。
「誰かが倒れていたら危ないですから、早く行きませんか?」
「念の為注意して行くぞ。クリス、防御魔法を掛けてもらえるか?」
「もちろん!」
私は三人に防御魔法をかける。すると、ユウくんが私の隣にいたラーネへと声をかけた。
「ラーネ、お願いがある。今日はここ周辺で野宿することになるだろうから、野宿できそうな場所を探してくれ。あとは洞窟内に魔物が入らないよう見張っていて欲しい」
ラーネはユウくんの言葉を理解したらしい。まるで敬礼のように、額を前足に持っていってから、崖を器用に登っていく。どうやら、崖の上から野宿できそうな場所を探してくれているらしい。
「すごい! ユウくん、ラーネにお願いできるなんて!」
私は興奮して声を上げると、ユウくんは肩をすくめた。
「いや、本当に理解して動いてくれるとは思わなかった」
私は目をまたたいた。どうやら、ユウくんも言ってみただけらしい。食事の様子を見ていて、私たちの言葉を理解していると判断したユウくん。もしかしたら、と思って頼んでみたらしい。
「勇者様も勘で動くことがあるんですね?」とマチルダちゃんに驚かれたユウくんは、「そりゃあるさ」と彼女にツッコミを入れた後、洞窟を指差してそこへと向かっていく。ユウくん、私、コニーくん、マチルダちゃんの順番で洞窟へと入っていった。
洞窟は岩肌が剥き出しの……イメージとしては日本にもある鍾乳洞みたいな感じだ。
観光用ではないので、地面が整備されているわけではないので、どうしても歩きにくい。意外と洞窟は高さがないため、背の高いユウくんやマチルダちゃんは、歩くのが大変そうだ。
最初は狭かった道だが、段々大きな空洞へと変わっていく。一番背の高いユウくんの身長の二倍ほどの高さになった頃だろうか……私たちは見つけたのだ。
「おいっ! 誰か倒れているぞ!」
先頭にいたユウくんが白い物体に駆け寄る。うつ伏せに倒れていたので、ユウくんが慌てて仰向けに寝転がらせた。
近づいて見ると、まだあどけない表情の男の子。雪のように白い髪と肌を持ち、耳は先が尖っている。年齢を推測するならば、まだ十歳程度、というところだろうか。
白い物体と思った理由は、彼が上下ともに白い服を着ているからだろう。
ユウくんは彼の心臓の音を確認する。心臓の鼓動が聞こえたのだろう。彼は胸から耳を離した後、ホッと胸を撫で下ろした。
「多分寝ているだけだろう……」
「良かったですぅ」
コニーくんは人一倍緊張していたのか、ヘナヘナと倒れ込む。その間にマチルダちゃんは男の子の周囲を確認した。
「外傷もなさそうですね」
「ああ、疲れて倒れた……のだろうが、何故こんな場所に?」
「うーん、魔物から逃げてここに潜り込んだのでしょうか?」
そう言いながら、コニーくんは男の子に近づくと呪文を唱える。傷は見当たらないけれど、念の為ということで癒しの神聖魔法を掛けたようだった。それを見ていたマチルダちゃんも同意する。
「それはあり得ますね。もしかしたら私やお嬢様のように魔物の察知ができる方の可能性もありますから」
「後でこの子が起きたら聞いてみましょう。まずは一旦外に出たほうがいいかもしれないわ」
私の言葉に、三人が頷いた。
洞窟に入った時点で、太陽が傾き始めていた。洞窟の前が広場になっていたので、今夜の野宿の場所はそこでいいとは思うけれど……どれだけの時間が経っているかが分からない。早めのうちに外へと出てしまった方が良いと思う。
「じゃあ、俺がこの子を担ぐ。マチルダ先頭、コニー、俺、クリスの順で頼む」
彼の言葉で、全員が来た道を戻り始めた。
何事もなく洞窟を抜けた私たち。
帰りはサクサク戻ることができたけれど、既に陽は傾いているのか赤色が混じり始めていた。入り口の前にはラーネが待っており、彼女の後ろには紐で縛られた魔物が何匹か放置されている。
どうやら、洞窟に近づいた魔物を倒してくれたらしい。お礼を告げた後、魔法袋へと入れてから、私たちはラーネの案内で広場へと向かう。
空き地は洞窟からほんの十数分くらいの場所にあった。
私たちがお礼を告げると、ラーネが「私、頑張ったの」と言わんばかりに胸を張っているので、私は頭を撫でておく。思う存分撫でた後、さて設営を……という段階になって、はたと気がついた。
ユウくんが担いできた男の子の存在だ。彼を地面に寝かせるのはどうなのだろうか。そう告げると、ユウくんは考え込んだ。
「確かに、地面に寝かせるのはかわいそうな気がします」
「流石にベッドは魔法袋に入れておりませんね……」
そうコニーくんとマチルダちゃんが答えた時、ふと隣にいたラーネが何かを思いついたのか、私から離れていく。そして、地面の上に糸を吐き出したのである。
よく見るとゴムのように太めの糸だ。それを吐き出しながら、器用にラーネは編み込んでいく。そしてあっという間に薄めの敷布団と掛け布団ができたのだ。
「わあ! ラーネ、すごいじゃない!」
これで男の子を地面に寝かさなくていいわね! と私が喜んでいる中、他の三人は口をあんぐりと開けている。最初に我に返ったのは、ユウくんだった。
「コニー、ダークウィーバーはあんなこともできるのか……?」
「いえ、僕も初めて聞きました……」
「お嬢様に関わってきた魔物ですから、やっぱり規格外なのですねぇ」
マチルダちゃんがしみじみと呟くのが聞こえた。そう言えば、元々ラーネはダークウィーバーの特殊な個体、って話だったっけ。
「すごいのねぇ、ラーネ!」
私が喜ぶと、ラーネも嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。私は彼女を褒めていたから気がつかなかったけれど、三人の間でこんな会話がされていたのだとか。
「まあ、クリスと昔から関わっているマチルダも特殊だからな……」
「勇者様、そこは有能、と言ってくださってよろしいのですが?」
「自分で言うのかよ……」
――その話が聞こえていたコニーは、思わず吹き出していた。




