【76】アンセスターダンジョン研修編⑤ 〜エピローグ、打ち上げの夜に〜
アンセスターダンジョン研修、全行程終了。
ダンジョンの冷たい空気と厳しい戦いを乗り越えた生徒たちは、夜の街へと繰り出していた。
──打ち上げ会場。
煌びやかなランタンの灯る、開放的な広場。屋台が並び、人々の笑い声が絶えない。
「かんぱーい!!」
乾杯の掛け声と共に、ジョッキが重なり合った。
果汁たっぷりのサイダー、フルーツ酒、ノンアルコールワイン……。それぞれ思い思いの飲み物を手に、祝杯が始まった。
「いやぁ〜!頑張ったよね、みんな!」
アップルが頬を染めながら、陽気に声を上げる。
「うん……すごく、がんばった」
マルミィも、ふだんより少しだけ大きな声で応じた。
シルティは串に刺したミニリンゴをかじりながら、ふっと笑う。
「……悪くない冒険だったな」
アーシスはジョッキを掲げたまま、仲間たちの顔を順番に見渡した。
その胸に湧き上がるのは、ただの達成感だけじゃない。
──確かな絆と、自信。
◇ ◇ ◇
ひとしきり盛り上がったところで、パブロフが壇上に上がった。
「おーい、そこの一年ども!ちょっと静かにしてくれ!」
場がざわつきながらも、徐々に耳を傾け始める。
「今回のアンセスターダンジョン研修──結果発表だ!」
皆の目が、パブロフに集中した。
「まずは、ダルウィンたちのパーティ!5階層到達!」
「おおーっ!」
拍手と歓声が上がる。堂々たる成績だ。
「次に、プティットたちのパーティ!4階層到達!」
またしても歓声。彼女らも充分に優秀だった。
そして──
「最後に、アーシスたち《エピック・リンク》──」
一拍、間を置く。
「8階層到達!これまでの学校記録、更新だ!!」
広場が、どよめきに包まれた。
「まじかよ!?」
「一年で、あの記録を……!?」
「何者だよ、あいつら!」
周囲の生徒たちがざわつく中、アーシスたちはきょとんと顔を見合わせ──
やがて、くすぐったそうに笑い合った。
「……あはは、やったね」
アップルが満面の笑みを浮かべる。
「……みんな、よくがんばった」
マルミィが、胸に手を当てながら小さく頷く。
「ま、当然だな」
シルティは鼻を鳴らしつつも、どこか嬉しそうだった。
「へへ、次はもっと上を目指そうぜ!」
アーシスが拳を握ると、みんなも力強く頷いた。
◇ ◇ ◇
「まったく……」
パブロフは屋台の隅、ビールジョッキを片手に一人ぼやく。
「4階層、5階層だって十分すごいんだぞ。ったく、今年の一年はどうなってんだ……」
けれど、その顔は嬉しそうだった。 鼻を赤くしながら、ビールをぐびりと煽る。
「こりゃあ、未来が楽しみだな……」
誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。
◇ ◇ ◇
夜は更けても、生徒たちの宴は続いた。
食べて、飲んで、笑って、歌って──誰かが踊り出せば、皆がそれに続く。
屋台の明かりと、夜空に浮かぶ月と、あふれる笑顔。
そして、アーシスたちは、それぞれの胸に新たな目標を秘めていた。
もっと強くなろう。
もっと遠くへ行こう。
──もっと、大きな冒険へ。
「行こうぜ、みんな!」
夜空に掲げたアーシスの拳に、みんなの思いが重なった。
打ち上げの夜。
それは、未来への小さな誓いだった。
(アンセスターダンジョン編、完)




