表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
212/219

【211】冒険者試験編⑬ 〜ダルウィンvs魔術師〜


 コロシアムはまだ、歓声とざわめきに満ちていた。

 砂煙が晴れても、観客の興奮は止まらない。


 倒れたまま動かないナップルのもとへ、救助隊のホバーボートが滑り込む。

 係員たちが慌ただしく魔法診断を始めるなか、控えエリアの若者たちは固唾を呑んでいた。


「ど、どういうこと??」

 アーシスは理解が追いつかず、首を傾げる。


「──体内の《気》の流れを、逆流させた、です」

 マルミィが呟いた。


「逆流……??」

 いまいちピンと来ていないアーシスの背後から、パブロフの低い声が落ちる。

「相手は《気》のエネルギーを操る特技を持っていた。……ナーベはその《気》の流れを解析し、逆に利用したってわけだ」

 魔導タバコの煙がふわりと上がり、パブロフはアーシスの頭をぽん、と叩いた。


「で、でも、どうやって??」


 パブロフは、ふぅ……と煙を吐く。

「……相手のラッシュをわざと受けながら、薄いマナをアリーナ全体に張り巡らせ、準備が完了したところで相手を煽って《気》を使わせ、そこに一気にマナを入れ込んでコントロールしたってわけだ。……ったく、あいつも学生レベルじゃねぇな」



   ◇ ◇ ◇


 観客席も、まだ興奮冷めやらぬ空気に包まれていた。


「あの子、けっこうかわいかったな」

「ああ、見た目いいと、どっかのクランが誘うかもな」

 ふぅ……と息を吐くボペットの耳には、そんな会話も聞こえてきた。


 ──ゲートを抜け、ナーベがゆっくりと戻ってくる。

 観客の喝采が背中を押すように降り注いでいた。


「やったな、ナーベ!」

 アーシスが親指を立てる。

 ナーベの頬が、うっすらと桃色に染まった。


「いえ、その……アーシスの声、届いてました」

 ごにょ。


 アップルたちも駆け寄り、ナーベを囲む。

「ちょっと、すごすぎなんだが!」

「や、やりましたね!」

「これで、流れが変わるかもな。ほれ、リンゴ」


 控えエリアの空気が一気に明るくなり、笑顔が溢れた。

 だが、そんな空気の中で──一人の剣士が静かに立ち上がる。


「……次は、あなたの番ですね、ダルウィン」

 ナーベの声に、ダルウィンは目を閉じ、短く答えた。


「……ああ」



   ◇ ◇ ◇


 巨大なコロシアムが熱狂的な歓声に包まれる中、アリーナの中央で相対する冒険者候補と冒険者。


 真新しい銀色の鎧に身を包んだダルウィンに対するは、使い古されたローブをひるがえす、三年目の魔術師ローロー。


「ふーん、正統派か。俺の嫌いなタイプだ」

 ローローは挑発するようにニヤリと笑った。

 その態度は、彼のキャリアと同様に擦れて見えた。


 開始の鐘が鳴ると同時に、ローローは即座に後方へ跳び、ダルウィンとの距離を稼ぐ。


「《ファイア・ボルチベス》!」

 掌から放たれた複数の火球が、一直線にダルウィンを襲う。


 ダルウィンは冷静だった。

 紙一重で火球を回避し、次いで飛んできた炎を愛剣で正確に切り裂いて無力化する。


「ちぃっ……」

 ローローは苛立ちを隠さず、次の詠唱に移った。

 距離を取り続け、嫌らしい角度から炎を撃ち込む。


 対するダルウィンは、堅実な剣技でそれらを捌き続けるが、なかなか間合いを詰めることができない。


「くくく、どうした剣士!手も足もでないか!?」

 ローローのいやらしい笑いがアリーナに響く。


 魔術師の嫌味に、控え席の生徒たちにも苛立ちが募る。

 ──だが、ダルウィンの目は揺れない。

 落ち着き、静かに剣を構え直した。


「あん?」

 ローローの眉が動く。


「《トリプルブルーム》!!」

 ダルウィンは剣を大きく横に三度、振り抜いた。

 ──三日月型の衝撃波が三枚、弧を描きながら高速でローロー目掛けて飛んでいく。


「くそっ、飛び道具あるのかよ!?」

 ローローは慌てて防御魔法陣を展開するが、衝撃波はそれを容易く打ち破り、ローブを切り裂いた。


 隙を見逃さず、ダルウィンは一気に超スピードで距離を詰める。

 ──もはや魔法の詠唱は間に合わない。ダルウィンは大上段に剣を振りかぶり、自らの"自力"全てを乗せて振り下ろした。


 ローローは為す術なく、ダルウィンの剣圧に吹き飛ばされ、アリーナの壁に叩きつけられる。


 ドガァァンッ!!


 ──勝敗は決した。

 終わってみれば圧勝。


「勝者──ダルウィン=ムーンウォーカー!!」

 司会者の声が響き、観客席からは、再び割れんばかりの歓声が沸き起こる。


「よっしゃあ!!」

 控えエリアでアーシスは拳を突き上げ、生徒たちは一気に盛り上がりを見せた。


 シャリ、とリンゴを齧りながらアーシスの隣に立つシルティが、ふと呟く。

「……なんだか、いつものダルウィンと違ったな」


 その言葉に、一瞬間を開けてアーシスも反応する。

「……たしかに。最後の一撃、粗かったな。精細さに欠けるっつーか……」



   ◇ ◇ ◇


 歓声の中、ダルウィンが控えエリアへ戻ると、生徒たちは歓喜に包まれた。


「やったな、ダルウィン!」

 満面の笑みのアーシスに、ダルウィンはふっと目を和らげ、微笑んだ。

「……ああ」


 二人がハイタッチすると、仲間たちも次々と手を挙げ、ダルウィンは囲まれていく。


「さぁ、この調子で行くぞー!!次は誰だー!?」

 アーシスの元気もりもりの声が控えエリアに響く。


 ──生徒たちが次の戦いに注目するなか、ようやく落ち着いたダルウィンは、静かに腰を下ろした。


 鎧の留め具を外していると、後方から小さな声が耳に届く。

「……納得、していないんですか?」


 振り向けば、ナーベが立っていた。

「……いや、そんなことないよ」

 ダルウィンは微笑みを返す。が、その笑みはどこか乾いていた。


 ナーベは表情を変えずに、再び口を開く。

「では…………"上位職"を選択したアーシスたちが、苛立ちの原因ですね」 


「!?」

 ナーベの言葉に、ダルウィンは目を見開く。

 ──そして、どこか納得したように微笑んだ。

「……ああ、そういうことか……そうだな。……彼らは、いつも一歩先を行く。……負けた気がしてたんだな、俺は」


「……そうですね。……でも」

「ああ……簡単には、いかないだろうがね」


 二人は静かに立ち上がり、遠くアーシスたちの背中を見つめた。


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ