【20】にゃんぴんの休日
冒険者育成学校、日曜の午後。
静まり返った中庭の木陰で、アーシスとマルミィはのんびりとおやつを頬張っていた。鳥のさえずりが心地よく、吹き抜ける風はほんのり花の香りを運んでくる。
「ふぁ〜……今日は本当にいい天気ですねぇ」
マルミィがぼんやりと空を見上げる。
その隣でアーシスは袋の中から取り出した小さな魚の干物をぽいっと放った。
──にゃ。
干物を空中で見事にキャッチしたのは、一匹のふわふわした猫……のような何か。小さな背中に小さな翼があり、耳はとがっていて、目はくるのくるとよく動く。
「にゃんぴん、今日も元気だな」
アーシスが微笑みながら声をかけると、にゃんぴんは胸を張るように姿勢を正して、誇らしげに「にゃ!」と鳴いた。
「……不思議、ですよね」
マルミィがぽつりと呟く。
「この子、他の人には見えてないんですよね。アップルちゃんにも、シルティちゃんにも」
「そうだな。あいつら全然気づかないもんな。通り過ぎても“ふーん”って感じだし」
「でも、にゃんぴんちゃんは、ちゃんとそこにいて……おやつを持ってると、すごい勢いで飛んでくるん、ですよね」
「もしかして、見えるのって“心のピュアさ”とか……?」
アーシスが冗談交じりに言うと、マルミィは
「それは、アーシスくんが言っても説得力ない、ですっ」と笑った。
そんな二人を尻目に、にゃんぴんは芝生の上をコロコロ転がったり、蝶を追いかけたりと、自由気ままに休日を満喫していた。
「でも、なんだかんだで……この子がそばにいると、落ち着く、です」
マルミィはにゃんぴんの背をそっと撫でた。ふわふわで、あたたかい。
「うん。俺たちが気づいてるってことは、きっと何か意味があるんだろうな。……にゃんぴん、何者なんだろうな」
問いかけに答えるように、にゃんぴんはアーシスの膝の上にぴょんと乗り、丸くなって目を閉じた。
「……きっと、そのうち教えてくれるんじゃない、ですか?」
「そうだな。気長にいくか」
そのまま三人──いや、二人と一匹はしばらくの間、春の陽気に包まれながら静かな時間を過ごしていた。
やがてどこからか聞こえてくる、お腹の鳴る音。
「……あれ?今のって……」
「たぶん……シルティちゃん、起きたんですね」
「……おやつ、隠しとくか」
にゃんぴんがピクッと耳を動かし、ふたりの膝の間からひょっこりと顔を出した。
にゃんぴんの休日は、まだもう少しだけ続くようだ。
(つづく)




