【201】冒険者試験編③ 〜一次試験合格発表〜
──筆記試験、翌日。
冷たい朝の空気の中、講堂前の広場はいつも以上に人で溢れていた。
特設された掲示板に、合格者の番号が一つずつ貼り出されていく。
ざわめく声、震える指先、固く握られた受験票。
広場全体が、不安と期待で揺れていた。
「よっしゃー!!」
「やったぁー!」
「……そんな……!」
「う、嘘だぁぁ!」
歓喜と落胆が交錯する。
冬の風が、それぞれの感情を運んでいった。
アーシスたち〈エピック・リンク〉の四人も、掲示板の前へと歩み出る。
誰もが口を閉ざし、受験票を強く握りしめている。
「……ありましたっ!」
最初に声を上げたのはマルミィ。
続いて──「私もだ」
シルティが微笑み、
「あ、あたしもあったー!」
アップルが飛び跳ねた。
そして──アーシスは目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込む。
胸の鼓動を確かめるようにして、顔を上げた。
ボードに並ぶ数字が、朝陽に照らされてきらめく。
「……あっ」
短くこぼれた声。
周囲が一瞬、息を呑む。
アーシスは歯を食いしばり、拳を握る。
そして次の瞬間──
「──あったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
両手を突き上げて叫んだ。
その目にはうっすらと涙が光っている。
「よかったね!アーシス!」
「おう!みんなのおかげだよ!」
歓喜と安堵が弾ける。
互いに笑い、肩を叩き合う。
「これで、次に進めます」
「ここからが本番だな」
「──ああ!」
アーシスの瞳に、次なる闘志が灯る。
掲示板の前で歓喜するアーシスたちを、少し離れた広場の傍から、ナーベは静かに見つめていた。
「笑ってるってことは、受かったのかな?」
背後から声がする。
「あ、当たり前です。あなたは?」
「ふっ、当然だ」
金髪の青年──ダルウィンが微笑む。
「おー、お前らも受かってたか!」
緊張の解けたアーシスが駆け寄ってくる、と、横から腕を組んだプティットが割って入ってきた。
「ふん、当たり前でしょ、筆記で落ちる人なんていないわよ」
「おいおい、言い過ぎだよっ。落ちてる人もいるんだから」
相変わらずのきつい言葉に、パットがフォローを入れる。
「よっしゃ!一次突破の祝いにみんなで食堂行こうぜ!」
「食堂って……オシャレなカフェとかじゃないの普通は!」
「まぁまぁ、どこで祝うかじゃなくて、誰と祝うかだろ?」
「は?」
アーシスとプティットたちが騒ぎ立てる横で、ダルウィンがプッと吹き出した。
「ふふ、賑やかだな」
「……まぁ、嫌いじゃないです」
ナーベが小さく答える。
「それじゃ、席取っとくねー!」
アップルが元気よく叫び、走り出した。
仲間たちはぞろぞろと広場を後にする。
残された空気を切り裂くように、ヒュウ……と木枯らしが吹き抜けた。
──人影の消えた広場に立ち尽くす二つの影。
グリーピー=ビネガー。
ナスケ=ムラサキ。
頭に落ち葉を乗せたまま、グリーピーがぽつりと呟く。「……そりゃそうだよな。解答してないんだから」
「……なんで発表を見に来たかまであるでござる」
ナスケは天を仰いだ。
「くそっ!来年こそ受かってやる!!」
「ござる!!」
二人は手を取り、木漏れ日の中でリベンジを誓いあった。
──その時、背後からぼそりと声がした。
「ん?……うちの学校に"留年"はないぞ?」
魔導タバコを咥えたパブロフが、気だるげに通り過ぎる。
「え……」
「やり直すなら入学試験からだ」
「え……」
そう言い残して、パブロフは去って行った。
風が止まり、静寂が落ちた。
グリーピーとナスケは、硬直したまま見つめ合う。
「……ま、まずは、実家と相談だな……」
「……ござる……」
冒険者試験は、次なるステージ"ダンジョン攻略"へと進んでいく!
(つづく)




