表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/219

【119】伝説の鍛冶屋編① 〜パンケンの正体〜


「ふにゃ〜、ボロボロにゃ……ポリポリ」


 小魚をかじりながら、空中をくるくると旋回するにゃんぴんの声が、アーシスの部屋にこだました。


 アーシスは静かに、手元に置いた剣を見つめていた。その刃は幾度も戦いをくぐり抜け、今では至る所にヒビと刃こぼれが走っている。


「……新調するしかないか」

 ぼそりと呟いたその声には、少しの寂しさと、戦友への愛情が滲んでいた。



   ◇ ◇ ◇


「これなんかどうだ?」


 翌日、放課後の武器屋巡り。アーシスは剣を手に取っては、振ってみる。

 バランスは悪くない。しかし、何かが足りない。


「……そんな剣じゃ、お前の技量に耐えきれず、すぐにオシャカだぞ」

 シルティの鋭い言葉に、アーシスは剣を元に戻す。

「だよな」


 別の剣──見た目も良く、振り心地も上々な一振りを手にすると、シルティが珍しく微笑んだ。

「これは……いいかもな」


 だが──その価格を見た瞬間、二人は絶句した。

「……じゅ、十万ゼルミ……!?」


 ……脱力して店を出たアーシスたちは、夕暮れの通りを歩いていた。


「はぁ〜……」

 溜息が漏れるアーシスに、アップルが首を傾げる。

「アーシス、他に剣は持ってないの?昔使ってたやつとか」


「ん〜、思い当たらないなぁ……」

 そう言いながらアーシスは、何気なく通りの金物屋に目を向けた。

「あ……パンケンがある……」


「パンケン?」



   ◇ ◇ ◇


 アーシスの寮の部屋。


「……あった、これだ」

 アーシスは押し入れの奥から、布に包まれた長物を取り出した。


 布をほどいた瞬間──出てきたのは、油と焦げで黒く染まった、何とも言えない一本の剣だった。


「……なにこれ!?」

「く、黒焦げ!?」

 アップルとマルミィの悲鳴が重なる。


「……昔さ、山にしばらく放り出された時、フライパンがわりに使ってたんだよ、これ」

 目を閉じて思い出し笑いを浮かべるアーシス。


「……それで"パンケン"、ですか」

 マルミィが顎に人差し指を当てながら呟く。


「……なんてバチ当たりなことを」

 シルティはしらけた目でジトっとアーシスを見る。


「いやぁ、どうしてもステーキが食べたくなっちゃてさぁ、この剣なら丈夫そうだし大丈夫かと思って。

 そしたらさぁ、熱伝導がよくて、素材の旨みを一瞬で封じ込めるから、めちゃめちゃ美味しいレアステーキが焼けるんだよ」


「……た、ためしてみよう」

 よだれを垂らすシルティに、アップルは「おい…」と突っ込む。


 ──そんな中、

「この剣を、武器屋さんにメンテナンスしてもらうのは、どうですか?」

 マルミィが冷静に提案した。



   ◇ ◇ ◇


 ドタドタドタっ!!


 武器屋の主人は、剣を見た瞬間に椅子から転げ落ちた。


「?」

「……大丈夫ですか?」


 立ち上がる主人は、震えながら小声で言う。

「……こ、これは……オ、オリハルコン……」


 一瞬の沈黙の後、

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 アップル、シルティ、マルミィの声が武器屋の外まで響き渡った。


「……なんだ?……そのオリなんとかって?」

 何も知らないアーシスに「オリハルコン!!」とアップルが激しく突っ込む。


「……伝説級の、金属です…」

 興味がなさそうにふわふわと浮遊するにゃんぴんの横で、マルミィが呟いた。


「……え?」

 アーシスは状況を理解できていない。


「お、ま、え、は、なんていうものをフライパンにしてたんだ…」

 シルティはアーシスの頬に拳をぐりぐり押し付ける。


「と、とにかく、こんな代物はうちじゃあ整備できないよ……悪いけど、他をあたってくれ」



   ◇ ◇ ◇


「んー……剣はあったけど、このままじゃ使えないな」

 町角の小さな公園のベンチに座って、アーシスは天を仰いだ。


「せっかくのオリハルコンなのにね」

 アップルも残念そうに頭で手を組む。


「あの……ギルドで鍛冶師を紹介してもらうのは、どうでしょう?」

 マルミィがぼそっと提案した。


「マルミィ、今日は冴えてるな」

 シルティが笑顔でぽん、とマルミィの肩を叩いた。



   ◇ ◇ ◇


 ギルドへ行くと、カウンターでマーメルとナーベが話をしていた。


「あら、アーシスくん」

 アーシスたちに気がついたマーメルが、笑顔で声をかけてきた。


「どもっ。お、ナーベも来てたのか」

 気さくに声をかけるアーシスに、ナーベは少し頬を赤らめる。


「いやぁ、実はさあ、この剣を整備して欲しいんだけど、武器屋さんに断られちゃって……」

 布を少し取って、ちらっと剣を見せる。


「!!……そ、それって……」

 ちらりと見えた剣を見て、ナーベの顔が青ざめる。


「ああ、オリなんちゃらってやつ。マーメルさん、誰か良い鍛冶師知らないかな?」


「……そうねぇ、オリハルコンとなると、ちゃんとした腕のある人じゃないと……」

 あっ、と思いついたマーメルは話し出す。

「……あの二人なら、もしかしたら……でも、引き受けてくれるかはわからないなぁ」


「それでいい!教えてくれ!」


「……"スチールフォージ工房"……場所は、ヤトソ山脈のふもと──ニメタス村よ」

 マーメルは懐かしそうに呟いた。


「スチールフォージ工房……か」

 アーシスが呟くと、横からアップルが提案した。

「ねぇ、ちょうど次の休み、連休だし、行ってみる?」


「……面白そうだな」

 シルティも興味津々に同意する。


「鍛冶屋見学も面白そうです」

 マルミィも頷く。


「よっしゃ、そんじゃあ、行ってみるか!」

 アーシスが元気よく叫ぶと、にゃんぴんも楽しそうに空中をくるくると回りだした。


「ちょっとした、旅行にゃ〜」


 こうして、アーシスたちは伝説の鍛冶屋を探す旅へと出ることになる──


(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ