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どうやらずっと待っているようです【4】

「ここですかね?」


「そうですね。ここの出店みたいですね」


 その出店はカフェの前に出店されており、店と出店の間の駐車場にテーブル席が設けられている。かき氷を買うとそこで食べられるようだ。

 テーブル席が設けられているのも納得で、出店のメニューに載っているかき氷は大きく、持ち歩いて食べるのはなかなか難しそうだ。

 私たちがそのメニューを見ていると露店のおじさんから声がかかる。


「いらっしゃい! おっ! 美男美女のカップルだね! カップル用のかき氷もあるだ! 一つどうだい? おすすめだよ!」


「いえ! わ、私たちはカップルというわけでは……ふ、普通のかき氷で!」


「そうかい? カップル用のが一つずつ買うより量も多いしおすすめなんだけどなぁ」


 露店のおじさんはそう言うが、付き合ってもいないのに流石に二人で一つを一緒に食べるのはどうなのかと思ってしまう。

 すると「まあ一応見てみな」とカップル用のかき氷のメニューをおじさんが見せてくれる。確かにおすすめと言うだけあって、大きさもありトッピングのフルーツも沢山乗っていて美味しそうだ。メニュー表に釘付けになっていると、真人さんがふふっと笑う。


「優希さんさえよろしければそれを頼まれては? こちらのほうがフルーツもたくさんのってますし」


「でも……真人さんはいいんですか?」


「はい。優希さんの好きなほうを頼んでもらったらいいですよ」


 結局私は悩んだ末、カップル用のかき氷を頼むことにした。真人さんもいいと言ってくれたし、やっぱりこちらのほうが美味しそうに見えたのだ。


 そういえばと晶子さんに言われたことを思い出す。「私から紹介があった」と伝えてくれと言われていたのだった。

 私がおじさんに晶子さんの話しをするとおじさんも思い出したというようにニッと笑う。


「そういえば晶子から連絡があったな。自分がお世話になった人たちが行くからって。あんた達のことだったのか。俺は新町正(しんまちただし)っていうんだ。晶子の叔父だ。晶子が世話んなったみたいだし、かき氷は俺の奢りだ! 奥に席があるからゆっくり食べてってくれ」


 新町さんはニカッと笑ってそう言うと奥の席に案内してくれた。


「なんだかすみません……ありがとうございます」


 私たちは案内された席に座ると一息つく。


 新町さんは晶子さんの親戚というだけあって整った顔立ちをされていた。晶子さんから聞いた話ではもう少しで還暦だと聞いていたが、とても若々しく見え40代前半と言われても違和感がない。



「お待たせしました。」


 私たちが席に座りしばらくするとかき氷が運ばれてきた。

 なかなかのボリュームで、のっているフルーツもハート型に切られていたりと可愛らしい。ずっと暑い中歩いてきたのでとてもかき氷が美味しそうに見える。


「わぁ! 美味しそう!」


 私がそう言うと新町さんは嬉しそうににっこり笑って、「ゆっくり食べてくれよ」と手を振り出店のほうに戻って行った。


「本当に美味しそうですね」


 真人さんはそう言ってにっこり笑うとスプーンを持った。そして一番上にのっていたフルーツをかき氷と一緒に掬うと私の前に差し出す。


「はい。どうぞ!」


 その行動に私はしばらく真人さんとスプーンを交互に見つめる。そしてやっと真人さんがまた私に食べさそうとしていることに気づき慌てて断る。


「じ、自分で食べれます! 真人さんが食べてください!」


 私が顔を赤くして返すと真人さんが寂しそうに目をふせる。


「ここが一番美味しそうだったので、ぜひ優希さんに食べてもらいたいと思ったのですが……」


 そしてこちらをじっと見つめて目で訴えてくる。そうしている間にも少しずつ氷が溶けてくる。私もしばらくここは譲らないと見つめ返す。

 しかしどんどん溶けていく氷に、結局私が根負けしてパクッと食べると真人さんが嬉しそうに笑った。


「美味しいですか?」


「美味しいですよ。でももう自分で食べるので大丈夫です!」


 次を食べさそうと氷を掬っていた真人さんにそう返すと「それは残念」と今度はそれを自分で食べた。


(あっ! それ私が食べたスプーンなのに!)


 私の心の声を知ってか知らずか真人さんは妖艶に微笑んだ。


「本当だ。とても美味しいですね」


 私は口をパクパクさせてさらに頬を赤くする。

 とても暑い日なのに余計に体温が上がってくる。しかも真人さんは顔色一つ変えずこちらを揶揄うようにそんなことをしてくるものだから、私だけがドキドキさせられているようで狡いと思ってしまう。


 こうなったらと私は少しでも自分の熱を下げるためパクパクとかき氷を掬って食べ出した。

 そんな私の様子を見て真人さんは楽しそうに笑った。




「随分楽しそうじゃな」


「うわっ! びっくりした! 座敷わらしさんいつからいらしてたんですか!?」


 突然真横から聞こえた声にびっくりして声を出すとニヤニヤと笑う座敷わらしさんと目が合う。


「そうじゃな。真人が楽しそうに優希にかき氷を食べさして優希が可愛らしく真っ赤になっているところからじゃな」



 ということはほぼ最初から全て見られていたということだ。私があまりの恥ずかしさに言葉を無くしていると真人さんがふふっと笑いだす。


「おかげさまで、とても楽しい時間を過ごせました。この時間を作ってくださった座敷わらしさんと晶子さんには感謝しています」


「そうじゃろう。そうじゃろう」


 ふっと誇らしげに胸を張ると、満足げに座敷わらしさんが頷く。


「楽しめたようで何よりじゃ! ところで正とは話せたか?」


「はい。このかき氷を奢ってくださいました」


「そうか。ならばよかった。ではそのかき氷を食べ終わったら、わらわのお願いについて話をしようかのう」


「わかりました」


 わざわざ新町さんと話せたか聞くということは彼に関係があることなのだろうか?


 私たちがかき氷を食べ終わるのを確認すると座敷わらしさんが席をたった。


「それでは行こうかのう?」


「え? 移動するんですか?」


「そうじゃ。とりあえずは話をする前に直接見てもらった方が早いと思うてな」


 座敷わらしさんはそう言うと出店を出て歩き出す。私と真人さんは顔を見合わせてとりあえず座敷わらしさんの後を追った。



 京都市内は碁盤の目のように上下左右に通りがある。

 座敷わらしさんは少し北のほうに歩くと左右にのびる通りを西の方角に向かって歩き出す。

 出店がある通りは人で賑わい歩きづらいが、しばらく西に歩き続けると少しずつ人の流れが減ってくる。

 そうしてさらに歩き続け、だいぶ人が減ってきたところでまた上下にのびる通りを北に向かって歩く。そうしてしばらく行くと座敷わらしさんが足を止めた。


「ここじゃ」


 座敷わらしさんが足を止めたのは一軒の古い廃屋の前だった。だいぶボロボロになっており、進んで中に入ろうとは思えない。


「えっと……この中に入るんですか?」


 夜で暗いこともあり、こんな時間にはできれば入りたくないと思えるボロボロの廃屋なのだが、座敷わらしさんは気にする様子もなくズカズカと入っていく。元々座敷わらしさん自体が妖なのだから何かに恐怖するという感覚があるのかも怪しいところではあるが……


「こっちじゃ」


 そう言われて手招かれては入らないわけにもいかず、私がおずおずと足を踏み出すと真人さんが私の手を握った。

 私が真人さんを見つめると真人さんがにっこり笑う。


「私が隣にいますから何かあれば優希さんのことは守ります。だから怖がらなくても大丈夫ですよ」


 その言葉と手の温もりに勇気をもらい、「はい」と頷くと座敷わらしさんの後に続いて足を踏み出した。


 玄関から中に入ると中は思っていたほど荒れてはいなかった。むしろ外の状態を考えると中がこれほど綺麗に保たれているのが不思議なほどだ。その疑問に答えるように座敷わらしさんが話し出す。


「中は外ほど荒れてはおらんし、危なくはないのだ。わらわとあやつが整えておるからのう」


(あやつ? 誰かがこの廃屋を綺麗にしてるってこと?)


「それは一体どなたですか?」


 真人さんが問いかけると座敷わらしさんが一つの部屋の前で足を止める。


「それは今から直接会ってもらえばわかる」


 そう言うと座敷わらしさんは目の前の襖をゆっくりと開いた。


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