どうやら守ってくれているようです【6】
(なんか真人さんすごい周囲警戒してる?)
私は真人さんと先輩との待ち合わせ場所に向かっていた。真人さんは待ち合わせ場所のが近くなると周囲にチラチラと視線を巡らせる。
「あの、真人さん?」
「あ、すみません。優希さんは心配なさらず。それよりも優希さん、伏見さんとの食事が終わられて帰る時は出来るだけ人通りの多い、明るい道を通って帰ってくださいね」
「? わかりました」
自宅付近はもともと暗いのでその近くまではいつも出来るだけ大通りを歩くように注意している。
「もしだいぶ遅くなるのであれば私に連絡して貰えば迎えに行きますから」
「いえいえ! さすがにそれは申し訳ないので大丈夫です」
「いえ、お気に入りなさらず。もし何かあれば気にせず連絡してくださいね」
「ありがとうございます」
私は何度か巻き込まれているので、真人さんもだいぶ過保護になっているらしい。でも前の会社に勤めている時は終電で自宅に帰ることが普通だったのだ。心配してもらえるのは素直に嬉しいが少しこそばゆい。
先輩との待ち合わせ場所に着くと既に先輩が着いていた。
「先輩! すみません。お待たせしちゃいましたね」
「大丈夫! 私が早く来ただけだから。あれ? そういえば今日は三人で来る予定じゃなかった?」
「実は昼間に大福くんがこちらに来てくれたので、今日はもう会わなくても大丈夫という話になったんです」
「え? そうなの? 大福が……何かわかった?」
「えっと……大福くん曰く先輩を守っているそうなんですけど……」
私はそれ以上のことがわからないので、真人さんに視線を向ける。
「大福くんが伏見さんを守っていることに間違いありません。ただ大福くんが危険だと思っているものをどうにかしない限り、ものを隠したりはやめないと思うんです。ですのでこの件は一度私に任せてくださいませんか? そしてしばらくは出来る限り誰かと行動を共にして欲しいんです」
「誰かと行動を共に……ですか? わ、わかりました。あの……その大福が危険と感じているものって……?」
「それはこちらに一旦任せてください。」
真人さんは笑顔でそう言うと、それ以上は何も教えてくれなかった。
「とりあえずお二人は何も気にせず、このまま夕食に行ってください」
「わかりました。それじゃあ真人さん、よろしくお願いします」
「はい。優希さん、また明日」
真人さんは笑顔で手を振ると私たちを送り出した。
私たちはそのまま予約していた店に向かった。
そのとき真人さんが私たちとは反対の薄暗い道のほうに鋭い目線を向けていることには気づかなかった。
「ねえ、優希ちゃん」
「何でしょう?」
「大江さんって本当にバイト先のオーナーってだけ?」
「どういうことですか?……あ! 実は真人さんカフェのオーナーさんだけじゃなくて断ち切り屋さんっていうちょっと不思議なお仕事もしててそれでこういうことにも詳しいんですよ!」
「いや! その話も気になるから後で聞くけど、そうじゃなくて!! 優希ちゃんと恋人同士じゃないのかって話よ!」
「え!? 何言ってるんですか! 前も違うって言ったじゃないですか! だいたい何でそう思うんですか?」
「本当に? 何ていうか…雰囲気がもう恋人同士に見えるんだよね。この前会った時なんか特に……それに普通バイト終わりに送り届けたりする? 大江さんって優希ちゃんのことすごく優しい目で見るじゃない?」
「それは真人さんが優しいだけで! あんな素敵な人が私の恋人なんて有り得ないですよ! 釣り合いがとれてなさすぎます!」
なんだか自分で言っていて悲しくなってくる。
真人さんはとても素敵な人なのだから私のような平凡な人が隣に立つのは相応しくない。それはこの前の買い出しの時のチクチクとした周囲からの目線で嫌というほどわかっている。
「そうかな? 確かに大江さん人間離れしたようなかっこよさと色気があるけど、私は優希ちゃんとお似合いだなって思ったけどな〜それに優希ちゃんは自分への評価が低いんだよ! 優希ちゃん可愛いんだから、もっと自信もっていいと思うの」
「そんなことないです……」
「う〜ん……それならさ。優希ちゃんは大江さんのことどう思ってるの?」
「私ですか? そりゃ真人さんはかっこよくて最初に会った時はタイプど真ん中の人だって思いましたけど、別に恋人になりたいとかじゃ……」
本当にそうなんだろうか?
先輩の問いに真人さんのことを思い浮かべてみる。いつも優しくて危ない時はすぐに駆けつけて、助けてくれる。一緒にいるとドキドキしてしまう。かっこいいからだと思うが、それなら二郎くんや鞍馬さんだってすごくかっこいい。
私が黙り込むと、先輩は優しげな目で私を見つめる。
「まあ、それは優希ちゃん次第だし、私がどうこう言うことじゃないかもだけど……さっきも言ったけど、私は二人はお似合いだと思ったし、優希ちゃんはもっと自信持っていいと思う。私は優希ちゃんの決めたことなら応援するから、もし何か話したいことあればいつでも相談にのるからね!」
先輩は私の表情からそれ以上聞くのはやめようと思ったのかそう言って話を切った。
私は先輩のそういうところが好きだ。相手に考えるきっかけをくれて、自分の意見だけを通すのではなく、本人がしっかり考える時間をくれる。
でもこの話は考えても一緒だ。あんな素敵な人が私を好きになってくれるなんて考えられない。それなら最初から自覚しなければいい。私は一人の男性としてではなく、人として真人さんが好きなのだと。
私は頭を振ると考えを切り替えた。今のままがいい。真人さんがいて、二郎くんがいて、ちょくちょく鞍馬さんが店に来て、和気藹々と楽しく仕事をする。面倒な感情を持ち込まなければずっと楽しくこの関係を壊さずいられるのだから。
「先輩、ありがとうございます」
私は自分の中でそう結論づけ、先輩に笑顔でお礼を言った。
あれから一週間が経ち、今日はまたバイト終わりに先輩と会い、あれからどんな様子か話を聞くことになっている。
「優希さんは今日伏見さんと会うのですよね?」
「はい。今日も夕食を一緒に食べるんです。その時に最近どんな様子か聞いてみようと思いまして! 何でも誰かと一緒にいるようにしてから、だいぶ物がなくなることが減ったとは聞いているんですが……」
「そうですか。それはよかったです。今日はどちらのお店に行かれるんですか?」
「今日は少し北の方の店に行こうと思っているんです。確か前に連れて行ってもらった、真人さんが食材を仕入れているお店の近くです」
「あの辺も飲食店多いですもんね。今日閉店後に食材を取りに行く予定で、ジロくんにも手伝ってもらうので、少し早めに店を閉めようと思っていたんです。近くに車を停めて受け取りに行くので、優希さんも一緒に乗って行きませんか?」
「いいんですか?」
「どうせ一緒の方向ですし、送りますよ」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
私は真人さんの提案に甘えることにした。
「優希さんは駅のほうなんだよね?」
「うん。今から駅のほうに行ったらちょうどいい時間かな」
真人さんは駅まで送ると言ってくれたが、駅まで送ってもらうと真人さんたちの目的地までは遠回りになってしまう。なのでそのまま食材を仕入れている店の駐車場におろしてもらった。
「真人さんありがとうございました。それじゃあ私、お先に失礼します」
「いえいえ。楽しんで来てください。ジロくん優希さんを駅まで送って行ってください。店から車への積み込みは私一人で大丈夫ですので」
「はーい!」
「え? 私は大丈夫ですよ! 遅い時間でもないですし、それより積み込みの方が大変なんですし、二郎くんは真人さんを手伝って!」
「遅い時間じゃなくても、もう暗いから送って行くよ!」
「こちらは大丈夫です。いつも店主の方も手伝ってくれるので」
それは余計に申し訳ないような気がする。私は何度か断ったが真人さんの笑顔の圧がすごく、結局二郎くんに駅まで送ってもらうことになった。
(なんだか先輩と会うようになってから真人さんの過保護が強くなってる気がする……)
「じゃあ真人さん、僕優希さん送ってきます!」
「はい。ジロくんお願いしますね。ん?」
その時真人さんの携帯が鳴った。着信の相手を見て真人さんの眉間に皺がよる。
「もしもし」
少しだけ漏れ聞こええた声から相手は鞍馬さんだとわかった。会話の内容ははっきりとは聞こえないが、真人さんの表情は話を聞くとさらに厳しいものになった。
「……わかりました。私も近くにいるので向かいます。話はそれから。では」
真人さんは電話を切ると険しい表情でため息をついた。
「ジロくんすみませんが、私も少し智風くんと会うので遅くなってしまいそうです。帰りの交通費渡すので、優希さんを駅まで送ったらそのまま帰ってもらえますか?」
「僕今日は他に用事ないし、少し遅くなるくらいなら大丈夫だよ。優希さん送ったらまたここで待ってます」
「そうですか? すみません……それじゃ優希さんをお願いしますね。では優希さんゆっくりご飯食べてきてください」
「はい! ありがとうございました」
真人さんは笑顔で頷くと走って行ってしまった。よほど緊急の用事らしい。私と二郎くんは顔を見合わせると首を傾げ一緒に駅まで歩き出した。




