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どうやら守ってくれているようです【5】

「あれ? 香先輩?」


 先輩は私の近くに来るとチラッと真人さんに目を向け、一瞬ぽーっと頬を染めるが、すぐ私へと視線を戻した。


「えっと……ごめん。デート中だった?」


 先輩は少し興奮気味で焦ったように尋ねる。


「ち、違います! バイト先のオーナーさんで今一緒に買い出しに来てるんです!」


 私は顔が熱くなるのを感じながら焦ってそう答える。

 すると真人さんが少し寂しそうに微笑んだ。


(え? 何ですかその悲しそうな微笑み。変な誤解を生むじゃないですか!?)



 私の咄嗟に出た否定がきつく聞こえてしまったのか、真人さんの寂し気な微笑をどうとったのか先輩はなるほどなるほどと仕切りに頷いていた。



(絶対何か誤解してる!!)


「あ! はじめまして。私優希ちゃんの前の会社の同僚で友人の伏見香と申します」


「これはご丁寧にどうも。私は優希さんのバイト先のオーナーの大江真人と申します」


「と、ところで先輩もお買い物ですか?」


「そうよ。今日は彼休みだから一緒に来ていたのだけど、さっき入った店で買い忘れがあったみたいで、ここで待ってたの」


 ふと先輩の足元に目を向けると、今日も大福くんがいる。

 しかし、いつものリラックス状態ではなくソワソワしている感じだ。真人さんに目で合図を送ると、真人さんが小さく頷いた。



「そういえば先輩、先日の大福くんのことで今度の水曜日にこちらの真人さんともう一人、会ってもらいたい人がいるのですが、いいですか?」


「もちろん! 早速ありがとう! 話をしてくれたんだね」


「いえ、そんな。それじゃあ水曜日お願いしますね」


 先輩との会話中にふと真人さんのほうを見つめると険しい表情で人混みのほうを見ていた。大福くんも真人さんと同じ方向を向き微動だにしない。



「あの……真人さん?」


「香、ごめんお待たせ!」


「あ、稜くんおかえり〜紹介するね!こちら私の夫の伏見稜(ふしみりょう)くん」


「こんにちは。えっと……香のお友達かな?」


「そうだよ。ほらこの前家に呼んだ前の会社の後輩でお友達の優希ちゃんだよ」


「先日はご挨拶もできず、お家にお邪魔させてもらってすみません。幸神優希と申します」


「そんな。僕も外出してたから、こちらこそ挨拶出来ずにすみません。これからも妻と仲良くしてやってくださいね。よろしくお願いします」


 さすがは先輩の旦那さんイケメンだ。笑顔がキラキラした爽やか系イケメンである。まさに先輩と並ぶと美男美女だ。



「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」


(……慣れってすごいわね。前の私ならぽーっとなってろくに挨拶できなかったかも……)


 私も笑顔で挨拶し、そんなことを考える。

 イケメンの中でもずば抜けてかっこいい三人をいつも見ているので、だいぶ耐性がついたらしい。

 そして先輩の旦那さんの視線がチラッと真人さんを向く。それに気づいた先輩が説明してくれる。


「あ、こちらは優希ちゃんのバイト先のオーナーさんで大江さん。ちょうど一緒に買い出しに来ていたんですって」


「どうも。大江と申します」


「あ、どうも」


 先輩は先程からニヤニヤと私のほうを見つめてくる。

 これは絶対に勘違いしてる。さっきの真人さんが抱き寄せて庇ってくれたところを見ていたのかもしれない。今度会うときに説明せねばと私はため息を吐いた。



「それじゃあそろそろ。買い出しの邪魔しちゃ悪いわね。それじゃあ優希ちゃん水曜日に!」


「はい、また水曜日に!」


 先輩達はこちらに手を振り人混みの中に消えていった。



「真人さん、私たちも行きましょうか?」


 私がそう言って真人さんを見上げると、先輩達が去ったほうをじっと見つめていた。


「……えっ! ああ、そうですね……」


 私たちは先輩達とは反対の方向に歩き出す。真人さんは周囲をチラリと見渡すと、もう一度最後に先輩達の去っていったほうを見つめる。


「どうかしましたか?」


「い、いえ、何でもありませんよ。すみません。行きましょうか?」


 真人さんは私に微笑むと、何でもないというように歩き出した。



(やっぱり香先輩綺麗だから、真人さんでも目を奪われちゃったのかな……?)


 私はチクッとした胸の痛みに気づかないふりをして気持ちを切り替えるように買い物を再開した。





「ねえ、優希さん、確か今日だったよね?」


「うん! 今日はよろしくね、二郎くん」


「うん! 任せて!」


 今日は水曜日、先輩と約束をしていた日だ。

 買い出しに出かけた日、真人さんは大福くんを見たが、やっぱりあの短時間では何故ものを隠すのかはわからないようだった。

 しかし、やっぱり私の見立てどおり大福くんと先輩の縁は綺麗な糸で繋がっており、真人さんから見ても大福くんが悪戯(いたずら)でそんなことをしているとは考えにくいと言っていた。


「ちょっと気になることもありますし……」


 その時の真人さんの小さな呟きは私には聞こえなかった。




「ん?」


「どうしたんですか鞍馬さん?」


 今日もカフェでコーヒーを飲んでいた鞍馬さんの声に私が振り向くと、カフェの扉をすり抜け、何かが入ってきた。


『ワン!!』


「えっ!? 大福くん!? なんでここに?」


 私が驚いていると、私の足元まで来てこちらを見上げてる。


『ウーワン! ワン、ワワン!』


 私に何か言いたいことがあるのはわかるが、何を言っているかさっぱりわからない。私が苦笑を浮かべ、助けを求めるように二郎くんに視線を向けると、二郎くんが私のそばまで来てにっこり笑う。


「どうやら今日の約束、遅れずに来てねって伝えに来たみたいだよ。」


「え? そうなの?」


『ワウ!』


 ご主人様のために健気だなと可愛らしい姿につい撫でてみたくなり、手を伸ばすが、すり抜けるばかりで触ることはできなかった。


「やっぱりダメか……」


「まあ、あまり力がない幽霊なら触れるのなんて無理だろ。そいつ自身が力を使いたいって強い思いがなきゃな」


「そんなもんなんですか……?」


 鞍馬さんの言葉に私はガックリ肩を落とす。

 真人さんは私の様子に苦笑を浮かべる。


「ジロくんついでに彼に何故ものを隠すか聞いてくれませんか?」


「あ! そうだね!」


『ワウ、ワン! ワンワン!』


「うーんと…僕はご主人様を守ってるんだって言ってますよ?」


「守ってる? 物を隠すことで先輩を守ってるってこと?」


『ワン! ウーワンワン! ワフ!』


「あいつから守るためだって。あいつって誰だろ?」


『ワン!……ワンワン!』


「あ!大福くん?」


 大福くんはそれだけ告げると慌ててカフェを出ていった。


「誰か知らない。そろそろご主人様のとこに帰らなきゃって言ってたよ」


 最後の言葉を二郎くんが教えてくれるが、謎は深まるばかりだ。私が頭を捻っていると、真人さんが「なるほど……」と呟いた。



「何かわかったんですか?」


「まだ確証はないですが、多分……おそらく大福くんに聞いてもあれ以上の答えは返ってこないと思うので、今日はもう話を聞きに行かなくて大丈夫だと思います」


「そうなんですか?」


「ですが確認したいこともありますし、優希さんを待ち合わせの場所までお送りしてもいいですか?」


「それは構わないですけど……」


 確認したいことというのが気になるが、真人さんのこの笑みは聞いても何も教えてくれなさそうだ。


「じゃあ僕もついて行きたい!」


「ジロくんすみませんが、あまり人数は多くない方が確認するのに都合がいいんです……」


「え〜……う……わかりました……」



 二郎くんはプクっと頬を膨らませ不満そうではあるが、そう言われては引き下がるしかない。

 私は二郎くんに大福くんの言葉を教えてくれたことを改めてお礼を言い、いつものように頭を撫でているとなんとか機嫌を戻してくれた。


 真人さんに大福くんが物を隠す理由を聞いてみたがまだ確証が持てるまでは待ってもらいたいと結局教えてはもらえなかった。


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