エピローグ そして迎える白い世界②
「……墓代は、請求させてもらうからな」
「すねかじりの私からむしり取ろうというのか……まあそれはともかく、誠司。顔がにやついてるぞ?」
「……ンッ! うるさい!」
——魔女の家のリビングで。
グリムの向かいには、憮然とした態度で腕を組む誠司。だがその口元は、綻びを隠せないでいた。
魔女の家の女性陣は、疑問符を頭の上に浮かべながらペタペタとグリムを触り続けている——。
——グリムが、帰ってきた。
改めてグリムは、皆に経緯を説明した。
話に聞き入る皆の、驚きは喜びに変わり、喜びは笑顔へと変わり——
——そして話を聞き終えた皆は、グリムを押し潰さんばかりの勢いで抱きついた。
ライラが、エリスが、レザリアが、カルデネが——。
その光景を目を細めて眺める誠司の肩に、リナの手が置かれる。
「……よかったね、誠司さん……」
「……フン。まったく……出会った時から変わらず、喰えない『転移者』だよ、彼女は」
やがてズリズリと這い出してきたグリムは、椅子に手を掛けてヨロヨロと立ち上がった。
「……それでだ、莉奈、誠司。話を聞く限りではドメーニカとファウスティも復活できたんだろう? いまは何処にいるんだい?」
その質問を受けたリナと誠司は、目を細めて微笑みあった。
「ふふ。グリム、あの二人はね——」
†
アルフレードの神殿。
そこには、円卓を囲むアルフレードとファウスティ。そして——
——ファウスティに寄り添うように座っているドメーニカがいた。
千年ぶりの再会を果たせた三人。だが、会話を交わすのは基本的にアルフレードとファウスティだけで、ドメーニカの表情は曇ったままだった。
ファウスティはアルフレードと目配せをして、ドメーニカに語りかける。
「……まだ……気にしているのか?」
「……うん。私は、たくさんの人のことを……」
自らの力で、多くの人を苦しめてしまった。ドメーニカの意思ではなかったとはいえ、彼女はそれを割り切れるような性格ではない。
アルフレードは静かに微笑みながら、ドメーニカに向き直る。
「ドメーニカ。千年前の事件は完全にヘクトールのせいだし、今回だってその因果が続いていただけだ。それに今回に至っては人的被害はゼロに等しい……グリムのおかげでね」
グリム、という名前を聞き、ドメーニカは目を伏せる。そしてポツリと、口を開いた。
「……グリムさん……」
ドメーニカの瞳から、涙が溢れる。グリムはドメーニカの滅びの数だけ、再生を請け負ったのだ。その命を犠牲にして。
場は沈黙する——。だがその時突然、皆の脳裏に声が響いた。
『——呼んだかな?』
唖然とする一同。その声の持ち主のことを良く知っているアルフレードが、呻くようにつぶやいた。
「……グリム……?」
『——やあ。取り急ぎ生存報告をね。莉奈の力で、声を飛ばしてもらっているんだ。経緯は聞かせてもらった。ファウスティ、保険は上手く、働いたぞ』
その言葉を聞いたファウスティは、グリムから引き継いだ記憶の片隅にある、ほんの小さな欠片を見つけた。
万年氷穴の保険の存在——全てを理解したファウスティは、苦笑いを浮かべた。
「……はは、そういうことだったのか」
『——そういうことだ。まあ、あとで伺うよ。結婚祝いは何が——』
『——こら、グリム! 余計なことは言わないのっ!!』
慌ただしい音と共に、声は途絶えた。
嵐のような出来事に、しばらく呆然としていた三人だったが——やがてドメーニカはファウスティの裾をちょんと引っ張った。
「……ねえ、ファウス。私……少しくらいなら、笑ってもいいのかな……?」
「はは、もちろんさ。それでも君が、罪の意識を感じるというのなら——」
ファウスティは真っ直ぐにドメーニカを見つめた。
「——俺が君の罪を背負ってやる。俺たちは二人で一つ、一連托生だ。ドメーニカ、これからもずっと、君の隣を歩かせてくれ」
潤んだ目を大きく開くドメーニカ。彼女は掠れる声でファウスティを見つめた。
「……ずっと……? ほんとに、ずっと……?」
「ああ、ずっとだ。星が終わっても、ずっとだ」
「……うそ……じゃないの……? 私でも……いいの?」
「当たり前だろう、ドメーニカ。千年、待たせたな」
「……ファウス……!!」
ドメーニカはファウスティの胸の中に飛び込んだ。ファウスティは困った顔でアルフレードを盗み見る。
「……こら、ドメーニカ。君の身体はもう大人だ。あまりくっつくな……」
「……一緒にいてくれるって……ぐすっ……言ったじゃん……!」
アルフレードの視線を感じ、頬を掻いて誤魔化そうとしたファウスティだったが——やがてドメーニカの髪を、その手で優しく撫でた。
「……まったく……そこいら辺は子供のままなんだな」
「……子供じゃ、ないよ……」
在るべきだった、形。そのように抱き合う二人を見て、アルフレードは感慨に浸りながらうなずいた。
「おめでとう、二人とも。じゃあ、僕からささやかなプレゼントを贈ろう。君たちの住んでいたイタリアの家が、どんな感じだったか教えてくれ——」
『大厄災』はもう、起こらない。ドメーニカはファウスティの腕の中で、幸せそうに『微笑む』のだった——。




