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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
最終部 最終章
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『』の物語 04






   [『グリム』の物語 04 —『花』—]






 荒野と化した戦場は、始まる前の様相に戻っていた。


 元々自然の少ない場所ではあったが、今は元通りに草木は生え、虫の音が聴こえてくる。



 そして、あの戦いに参加した者はそのほとんどが再生していた。


 人はもちろん、クロカゲにアオカゲ、氷竜たちに加えて、女王竜やヴァナルガンドまでも——。



 夜空が白み出した頃、グリムはつぶやいた。



「……さあ、もう少しで完遂だ。そろそろ私たちの『願い』を叶えようか」



 『魂』が、一つ、二つ、グリムの端末に吸い込まれていく。


 一瞬の輝きのあと——そこに現れたのは、アルフレードとファウスティだった。



「……僕は……いったい……」


「……アルフ……アルフ、なのか……?」



 しばらく茫然と目を合わせていた二人だったが、やがて肩を寄せ、固く握手を交わした。その光景を薄目で見るグリムは、幸せそうに息を吐いた。


「……さて。いよいよだ、誠司。彼女の、復活だ」


「……一応、聞くが……大丈夫なのかね、グリム君」


「ああ。彼女の復活にあたり、一つ、重要なことがある」


 誠司の顔に緊張が走る。周りから唾を呑む音が聞こえてくる。


 彼女——言うまでもなく、残された最後の人物、ドメーニカの復活についてだ。


 グリムは視線を、誠司に移した。


「懸念される『女神像』の復活はないと思う。世界を滅ぼす能力だ、一度きりの能力だろう。だから『消滅』を確認した今、新たに『ひとりぼっちの世界(ピリオド)』が発動されることはない。『転移者』としての直感だけどね」


 グリムの説を聞いた『転移者』組、誠司、リナ、アルフレードは神妙に頷く。特にドメーニカを封印し続けていたファウスティは、同調するように力強く頷いた。グリムは続ける。


「だが……もし、彼女を普通に復活させれば、もしかしたら、『理性』を失った状態で復活してしまうかもしれない。二十年前のヴェネルディのようにね。その場合、彼女自身の能力で、下手をすればこの場に『厄災』……『色彩』が渦巻く恐れがある」


 その言葉を聞いたジョヴェディやハウメアは身構えた。『護りの魔法』や『厄災』の防御が必要になるのかもしれない。


 だが、誠司は疑問に眉をしかめてつぶやいた。


「……いや、そもそもグリム君。ドメーニカの『魂』は、私が斬って消滅させた。復活自体が——」


「そうだよ、誠司。そこなんだ。キミの生存が、この勝利に必須だったのは」


 訝しげな表情を浮かべる誠司。その彼の表情を見ながら、グリムは弱々しく口角を上げた。


「忘れたかい、誠司。ルネディたちを始めとする『厄災』たちは、当時理性を奪われ、キミに『魂』を斬られて、再び復活した時には理性を取り戻していたことを」


 その言葉にハッとなり、誠司はルネディたちの方を見た。


「……確かに……私の剣が本当に『魂』を消滅させるのであれば……彼女たちの復活自体が……」


「そうだ。だから私は推測した。キミの剣は『魂』を消滅させるものではない。本来在るべき『魂』に浄化し、天へと還す剣だと」


「……そう……なのか……?」


 誠司は身につけている小太刀に目を向ける。グリムはフッと笑い、続けた。


「まあ、そこに関しては推測の域を出ないが……確かな事実として、『厄災』たちは理性ある状態で戻ってきた。その事実があったからこそ、キミにドメーニカの『魂』を斬ってもらうのを勝利条件に設定したのさ」


「……だったら……いや……」


 この戦い、ドメーニカの『魂』の救済を狙うのであれば、『オペレーション・F』を成功させるしかなかった。そう思っていた。


 だがそれが失敗した以上——いや、もしかしたら戦いの結果を問わず、グリムは『1か0かの再構築(リ(・)バース)』の行使を決めていたのかもしれない。



「……さあ、待たせたね、ドメーニカ。キミの『魂』も、一日以内に失われた『魂』だ。約束通り、キミも、世界も、救ってみせたぞ……!」



 一つの『魂』が、一体のグリムの端末に吸い込まれていく。



 一瞬の光のあと、そこにいたのは——



 ——純白のドレスを着た、あの時より少し大人の姿になった、ドメーニカだった。



「……う、ん……わたし、は…………」



 ファウスティが、茫然と見る。上体を起こし、頭を押さえる彼女を。その姿を視界に捉えた瞬間、震え出す唇、瞬きを繰り返す目。


 やがて彼は、瞳から涙をこぼしながら、彼女の元へ駆け寄った。



「……ドメーニカ!!」



「……ファウ、ス……?」



「ああ、俺だ、ドメーニカ! 分かるか!?」



「……ファウス……ファウス……!!」



 二人は、抱き合った。今まで『魂』が混ざり合っていたとはいえ、千年ぶりの再会。


 その様子を驚きながら見るアルフレードが、グリムの元へと近づいてきた。


「……グリム……あれは……ドメーニカはもう少し、子供だったけど……」


「……はは、アルフ。ドメーニカはこの世界に来てから封印されるまでの間、六年の時を過ごしていたんだろう?」


「……待て、ということは……」


 グリムはドメーニカとファウスティの方を見て、幸せそうに『微笑んだ』。それはグリムが、初めて見せた表情だった。



「ああ。『永久不変』の彼女だったが、封印されるまでの『生きた時間』……六年の間、『魂』はちゃんと成長を遂げていたんだ。よかったな、ドメーニカ。これでファウスティと、結婚だってできるぞ?」







 朝日が、昇る。



 ほとんどの『魂』は、グリムの力によって再生を終えた。



 残っている端末は、もうない。皆が沈黙して見守る中、グリムは弱々しく口を開いた。



「……いよいよ、最後だ。この身体を還すことで……私の『1か0かの再構築(リ(・)バース)』は……完遂する」


「……グリム……」


 リナは跪き、彼女の手を握った。その手を力なく握り返して、グリムはリナを見つめた。



「……なあ、莉奈……私は……人間に……近づけたかな……」



「……ふふ、今さらだなあ……グリムは最初から最後まで、とっても人間だったよ……どこの世界だって、いっつも私の心配、してくれたじゃん……」



「……そうか……よかった……じゃあな、莉奈……」




 そう短く言い残して、彼女は静かに目を閉じた。穏やかな表情。全てをやり遂げた表情。



 その彼女の身体に、小さな小さな『魂』が降りてきた。



「……グリム……」



 皆の嗚咽が聴こえてくる。朝日が差し込む中、リナは彼女に最後の別れをつぶやいた。



「……さようなら……私の一番の、親友……」



 グリムの身体が一瞬の光に包まれる。彼女の身体が消失する。



 そして、光が晴れたあと、そこには——




 ——小さな小さな、名もなき白い花が、風に揺れていた。








明日投稿のエピローグ五話をもちまして、本作は完結となります。


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ドメーニカ……ファウス……
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